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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第8章 【家康・後編】※R18


竜昌は、手に取った板を、ぎゅっと強く胸に抱きしめた。戦か、飢えか、病か…子供たちが七つの齢を迎えるまでに亡くなることは、この時代 珍しくなかった。
世を去った子供たちに墓石をたててやる金もない。さりとて忘れることもできない。親たちのせめてもの想いがこの小さな杉板となり、薬師堂に山と積まれていた。
胸の深部を焦がすような痛みを覚え、竜昌はその場にうずくまった。その脳裏には、姉・菊姫の三人の娘たちや、秋津国家臣の子供たちの姿が浮かんでいた。
それだけではない。今まで自分が戦で斬ってきた敵兵にさえ、幼い子供はいたのだ。
『私には涙を流して悲しむ権利は…ない』
竜昌は泣くこともできず、うずくまってひたすらに胸の痛みに耐えるしかなかった。
そのとき、誰かが竜昌の背後から声をかけてきた。
『もし…どなた様?』
竜昌が驚いて振り返ると、そこには年老いた尼僧が立っていた。傘を差し、優し気な目つきで竜昌をじっと見つめている。
「失礼いたしました。急に雨が降ってきたもので、雨宿りをさせていただいておりました…私は藤生竜昌と申します」
「あら…お侍様かと思ったら、女性(にょしょう)の方なのね」
「侍には相違ございません。わたくしは織田信長公にお仕えしております。この駿河には徳川様のお共で参りました」
「まあそうでしたの。ともあれ、そこでは雨に濡れます。どうぞこちらへ」
尼僧は傘をかたむけ、竜昌をいざなった。
「いえ、私はここで…」
「どうかご遠慮なさらずに」
遠慮する竜昌に、尼僧はニッコリと微笑みかけた。断り切れずに竜昌が付いていくと、本堂の方へと案内され、さらにそこで乾いた手拭を渡され、温かいお茶を振る舞われた。
「かたじけのうございます」
雨で冷えた身体に、お茶の温かさが心地よく広がっていた。
尼僧はただニコニコしながら、お茶を飲む竜昌を見ている。
「藤生様は、戦にお出でになられるのですか?」
突然の質問に、竜昌は息を呑んだ。しかし尼僧は相変わらずニコニコしている。悪気はないようだ。
「は、はい。 戦に出て、敵を打ち滅ぼし、国を、民草を守るのが、我ら侍の役目と存じております」
「まぁ、お強いのね」
「強くなどありません!」
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