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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第8章 【家康・後編】※R18


そう言うやいなや、蜻蛉切を片手に迫ってくる本多。その豪快な大振りをひらりとかわす竜昌に、野次馬からはやんやの歓声があがった。
『これではまるで見世物だ…まあ、気が紛れていいけど…』
さすがに忠勝や直政などの剛の者と手合わせをしているときは、家康への想いを忘れることができた。
しかし夜になり、重臣たちと夕餉の席につくと、上座にいる家康の姿が嫌でも目に入る。しかしその隣には必ず睦姫がぴたりと張り付くように座り、抜け目なく給仕をするため、末席にいる竜昌は近づくことすらできなかった。

そうやって数日が過ぎたある日、駿府城の城主の間には、家康と、四天王のうち榊原をのぞく三人が集まり、軍議を開いていた。
「…それはまことでございますか、殿」
弾かれたように立ち上がり、驚いた顔で問う忠勝。
「うん…最初はただのくだらない噂だと思ったけど」
「あの越後の龍と、甲斐の虎が…」
つい昨晩、光秀からの密書が家康の元にとどいたばかりだった。上杉謙信と武田信玄が生きているという噂は、どうやら本当だったらしい。
「あいつらは、虎視眈々と信長様の命を狙っている。もし戦になれば、この駿河も戦場となりうる…そして秋津も」
秋津国の隣国である高城国も、元はといえば謙信の同盟国だった。となると謙信という大きな後ろ盾を得て、再び安土に攻め込んでくる可能性は高い。つまり、再び秋津国は戦の最前線となる。
秋津という言葉を聞いて、障子の向こう側でぴくりと身を震わせる者がいた。
たまたま、家康に城からの外出の許しをもらいにきた、竜昌だった。
「急いで戦の準備をする。秋津にも兵を割かねばならない」
「はっ」
「腕が鳴りますなあ、殿」
「して殿、睦姫様はいかがいたしましょう」
「京に帰す。あいつは戦のいの字も知らない。ここにいても邪魔だ」
「素直にお帰りいただけますかどうか…」
「力づくでも帰せ。知らずに済むのなら、戦なんて…知らないほうがいい」
口では邪魔などと言いつつも、家康は深窓の姫である睦姫を気遣っているのだろう。
再び、竜昌の胸がチクリと痛んだ。思わず、懐にいれたままの、家康からもらった薬瓶を握りしめる。
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