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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第6章 【家康・中編】※R15


二人きりとなった城主の間を、沈黙が包んだ。リリ…リ…と、遠くから聞こえる鈴虫の音が、やけに大きく響く。
話しかけるきっかけを見失ったまま、いくばくかの時が過ぎた。
その沈黙を破ったのは、竜昌だった。
「あの、家康、さま…」
家康は声に出さず、瞬きでそれに応える。長い睫毛が、行燈の光でその頬に影を落とした。
「に、荷造りのほうはいかがですか…お忘れ物はございませんか…」
我ながら気の利かなさすぎる台詞に、竜昌は恥ずかしさのあまり俯いた。
「うん・・・」
「左様でございますか。では、私もこれにて…」
「待って」
立ち上がりかけた竜昌を、家康がひきとめた
「忘れ物」
そうぶっきらぼうに言いながら、家康が懐から取り出したのは、竜昌があの夜に客間で落とした小瓶だった。中にはまた元のように傷薬が詰められている。
「空だったから、また入れといた」
「家康様…」
両手でうけとると、そのガラスの小瓶は家康の体温でほんのりと温まっていた。ぬくもりが逃げないようにそっと手でつつみこむと、竜昌は頭を下げた。
「かたじけのうございます」
「怪我もほどほどにしなよ。ま、薬はいつでも作ってあげるけど」
「ハイッ!」
やっと竜昌の顔に笑顔が戻ってきたのを見て、家康も内心ほっとした。
その時、竜昌がその大きな眼をさらに見開いた。
「そうだ、家康様!…是非お見せしたいものがございます!」
「え…?」
「どうぞこちらへ」
竜昌は立ち上がって障子を開け、家康がついてくることを確認すると、そのまま上の階へと階段を昇りはじめた。
秋津城の天守閣は四層になっている。城主の間がある二層目から四層目まで登りきると、竜昌はその最上階の間をぐるりとかこむ板壁に手をあて、なにやら探りはじめた。
明かりとりの窓から漏れくる月の光で、おぼろげに照らされている板壁の隅に、小さな節穴が開いているのが見える。
竜昌がその節穴に指をいれると、カチリと音がして、板壁がまるで扉のように開いた。
その向こうには、人が一人入れるほどの狭い空間があり、その壁には小さな梯子が据え付けられていた。
「お気をつけて」
竜昌は、その梯子に手を掛けると、するすると身軽に登っていった。
家康もそのあとに続く。
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