第6章 【家康・中編】※R15
そして、秋津に駐留していた伊達家の兵たちは安土や仙台に帰還し、代わりに駿河から家康の家臣たちが派遣されることが決まり、その交代の世話もしなければならない。
それぞれに必要な費用、人員を計算し、優先順位をつけ、担当の部下に割り振っていく。
家康が治める城は一つではないため、ここに常駐はできない。引き続き、水崎一之進を城代家老(城主の代理)として任命し、国を治めさせることにした。
竜昌も家康のそばについて回ったが、あまりの忙しさに、ついぞ二人で言葉を交わすこともなく、一日が過ぎていった。
その夜も、三人の小悪魔たちに引き留められ、竜昌は一之進の屋敷に泊まった。
さらにその翌日も同じように、慌ただしい視察の行列は続き、あっというまに日が暮れてしまった。明日はすでに、家康が秋津を去る日である。
さすがに今宵こそは、家康一行の旅立ちの世話をしなければならぬと、竜昌は一之進の屋敷を出て、城に戻ってきた。
持ちきれないほどの土産を持たされた、家康の家来衆たちの荷造りを終えると、竜昌は最後の確認に、城主の間を訪ねた。
するとそこには、家康ともう一人、城代家老となったの一之進の姿があった。
「おお、竜昌、良いところへきた」
「義兄上様いかがなされました?」
「私の名代として駿河に行ってはくれぬか」
「え?」
「実は徳川様のご母堂、於大の方様は、私の遠縁にあたるお方なのだ。せっかくのご縁なのでご挨拶に伺いたいがのだが、このとおり、城も国もバタバタしておるのでな」
「ですが…信長様には…」
元々、秋津国の案内が終われば、竜昌は安土に帰るつもりだった。その予定で信長にも許しを得ている。
「徳川様が、織田様にはとりなしてくださるそうだ」
「よ…よろしいのでしょうか」
竜昌が、おずおずと家康の顔を覗き込むと、相変わらずの仏頂面で、家康がうなずいた。
於大の方に渡すべき進物と文の入った風呂敷包みを竜昌に渡しながら、うまくいった、と一之進がニヤリと笑った。
「頼んだぞ、竜昌」
「は、はい…」
突然の成り行きに、竜昌は大きな眼を瞬かせて、家康と一之進を交互に見つめた。
「では、私はこれで失礼いたします。明朝またお見送りに参りますので…」
一之進はそそくさと退出し、後には竜昌と家康だけが残された。