第6章 【家康・中編】※R15
さらにそこには、菊と一之進の三人の娘たちが、一人は竜昌の背中におぶさり、一人は腕からぶらさがり、もう一人は蝉のように足にしがみついていた。
「義兄様…たすけて…」
その姿に、宴席からは笑いが起こった。
「これは竜昌殿、モテモテでいらっしゃいますなあ」
「これこれお前たち、何をしている?もう寝る時刻だよ」
一之進がたしなめるも、娘たちは一向に聞く耳をもたない。
「たちゅまさとまだあそぶのー」
「姉様が寝るなら私もねるー」
「キャッキャッ」
「家康様、今宵はこの子たちを連れて義兄上の家に泊めていただいてもよろしいでしょうか」
「我が家はもちろんいいが…」
「…そうするしかなさそうだね」
家康が呆れたように応えたが、その表情は優しかった。安全の面でも、いつでも帯刀が出入りできる城よりは、そちらの方がいいだろう。
「恐れ入ります。さあさあ姫様方、おうちへ帰りますよ」
「はーい」
「はーい」
「アーイ!」
そのまま娘たちをひきずるように、竜昌は宴席を後にした。子供たちの嬌声がだんだんと遠ざかっていく。
「失礼いたしました徳川様、あの子たちは本当に竜昌が大好きで…姉のように慕っているのです」
「…いいんじゃない」
家康は相変わらずの無表情だが、その顔は先ほど竜昌を探していたときとは打って変わって、柔らかくなっているのに、一之進は気付いた。
『さてさて、これはどうしたものか…』
家康の盃を再び満たしながら、一之進はその頭の中で、今後の策を練り始めた。
─── ◇ ─── ◇ ───
翌日から、家康の本格的な視察が始まった。
地元に詳しい家来衆をひきつれ、領内の主だった集落を回る。普請が必要な橋や道、荒れた田畑の水利の改修など、やることは山ほどあった。
さらに、織田勢に下ってから、ここ秋津は敵対する高城の国への最前線となったため、防御を固め、兵を鍛錬し、敵の来襲に供えるのも急務だった。