第6章 【家康・中編】※R15
「秋津はまことにうるわしき国ですぞ、徳川様。いやはや、羨ましい限りでございます」
伊達家の代表として参加した一人が、酒を片手に秋津国を褒め称えた。
「食べ物は旨い、気候は穏やか、人々は気立てが良く…、そしてなんといっても美女揃い!」
宴席にワハハと大きな笑いが起きた。みなの視線を一身に浴びた竜昌が、照れて頬を赤くする。
「ワシの家臣にも、ここで嫁をみつけて所帯を持ちたいという輩が、幾人もおりましてな」
「それはまことでございますか」
竜昌が嬉しそうに笑った。
「ええ本当です。私は良いのですが、伊達の殿にお叱りをうけないかヒヤヒヤで…」
さすがに大事な部下を他国に取られたとあっては、家臣の面目も立たないのであろう。
「秋津は度重なる戦で、男子がずいぶんと減ってしまいました。こちらへいらしてくださるのならば有難いのですが…」
「藤生殿は、わが殿と剣術仲間でおられるとお聞きしています。なんとかお取次ぎいただけないでしょうか」
「そうですね。安土に帰ったら、私から政宗様にお伝えいたします」
「かたじけない」
竜昌の口から政宗の名が出るのが面白くないのか、盛り上がる伊達家の家臣と竜昌を後目に、家康はつまらなそうに盃を傾けていた。
空いた盃に、家臣たちが次々と酒を注いでいく。
それからどれだけ時がたったのか、いつのまにか竜昌の姿が宴席から消えているのに、家康は気付いた。
家康がきょろきょろとしているのを見つけた一之進が問う。
「殿、いかがなされました?」
「いや、なんでもない」
「竜昌なら菊に会いに、奥の方へいっておりますが」
「ふーん…」
誰も竜昌のことなどとは一言も言ってないのに、図星をついてくる。さすがは若くして筆頭家老になっただけあり、なかなか敏い男のようだ。
一之進からの盃を受けながら話をしていると、障子の向こうから子供たちがキャッキャとはしゃぐ声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声に、家康と一之進が同時に振り替えると、障子が開き、そこには困り顔の竜昌の姿があった。