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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第6章 【家康・中編】※R15


あふれくる後悔と、自分の情けなさを拳に込め、家康は杉の幹を力任せに殴った。大木はびくともしないが、家康の拳にはうっすらと血がにじんだ。
竜昌の後姿が見えなくなると、家康は、木陰を出て、一礼して墓所に立ち入った。
そして、竜昌がしゃがみこんでいた、質素な墓石の前に立つ。おそらく左の少し古いのが母親、右の新しいのが父親の墓石だろう。
家康は手を合わせ、一心に祈った。そして懐から、竜胆の花をとりだして、墓前に供えた。ここへ来る途中、道端で咲いていたのを摘んできたものだ。
最後にまた深く一礼すると、家康も足早に墓所を後にした。

ややして、清水でさっぱりと顔を洗って、墓石を清めるための水桶を手に、竜昌が墓所に戻ってきた。
「あ…」
するとそこで、墓前にそなえられた、まだ瑞々しい竜胆の花を見つけた。つい先ほどまではそこに無かったものだ。
竜昌は、その場に水桶を放り出し、急いで元来た道を戻った。まだ間に合うかもしれない。玉砂利が敷き詰められた寺の境内を抜け、門前に走り出ると、遠く彼方に、馬に乗った人影が去っていくのが見えた
その人の羽織に見覚えがあった。昨夜、家康の寝所で見た、あの梔子(くちなし)色の羽織だった。

─── ◇ ─── ◇ ───

その日、秋津城では大々的に、新城主である家康のお披露目が行われた。
重臣たちは城の広間に一同に集められ、竜昌もその中にいた。ちらちらと目を配ってみたが、帯刀はこの場にはいないようで、竜昌は内心ホッとした。
まずは順番に、城勤めの家臣たちから、家康に挨拶をしていった。
それ以外にも、城下の豪商たちが貢物をもって参上し、また各村の庄屋たちも挨拶に訪れた。
とめどなく続く挨拶の列を、家康はいつもの無表情で淡々とこなしていた。
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