第6章 【家康・中編】※R15
あわてて竜昌が紹介すると、秋津から来た者たちが全員、家康の前にひざまずいた。
「徳川様、遠路はるばるようこそ秋津へお越しくださいました。わたくしは秋津国筆頭家老・水崎一之進と申します。本日は秋津城を代表してお迎えに参上つかまつりました」
竜昌に『義兄様』と呼ばれた男だ。おそらく菊の夫なのであろう。まだ若そうに見えるが、筆頭家老だという。
「よろしく…」
「正式なご挨拶はまた後程。お疲れになったでしょう。さっそく城へご案内いたしますので、ご一服なさって下さい」
一之進は深々と礼をすると、自分たちが乗ってきた馬に荷物を載せるよう、家康一行に声をかけた。
その間、一之進の横にいた若い男が、竜昌に親し気に語り掛けていたのを家康は見逃さなかった。
「よう戻られました。竜昌様」
「帯刀も変わりないか?」
「はい。竜昌様はまた背が伸びられましたか?」
「まさか!」
帯刀と呼ばれた若者は、竜昌と談笑しながらも、途中ちらちらと家康を盗み見ていた。その視線に気づいた竜昌が、家康に彼を紹介した。
「家康様、これは吉田帯刀と申します。私と同い年で、幼いころから兄弟同然に育った者でございます」
「お初にお目にかかります、徳川様」
そういいながら今一度 礼をした帯刀だったが、あからさまに挑戦的な視線を家康から外すことはなかった。
まるで『まだお前を城主として認めたわけではない』と顔に書いてあるかのようだった。
「でも剣術では一度も私に勝ったことはないですけどね」
「竜昌様っ!」
けらけらと仲が良さそうに笑いあう二人をみて、家康はなぜか胸中にもやもやしたものが生じるのを感じていた。
─── ◇ ─── ◇ ───
一行がしばらく山道を進むと、急に視界が開け、山上のわずかな平地に広がる城下町と、そびえたつ秋津城が目に飛び込んできた。
青空を背景に、まぶしいほどの白壁が映える堂々とした天守閣は、難攻不落の名に恥じない立派なものだった。
「これは…美しい…」
家来衆が口々に感嘆をもらすのを聞いて、竜昌はまるで自分を褒められたかのように嬉しそうに微笑んだ。
家康も、翡翠色の眼をまぶしげに細め、城を見上げた。
一之進が、家康の横でにこやかにこう告げる。
「本日より徳川様のお城でございます」
「うん…」