第6章 【家康・中編】※R15
竜昌は寝ぼけたようにそうつぶやくと、そのまま寝息をたてはじめた。
『まったく…無防備すぎるのはどっかの誰かさんと同じだな』
家康は、幸せそうな顔ですやすやと眠る竜昌の頬にかかったほつれ髪を指ですくい、その耳にかけてやった。
夕餉の場にのこされた家来衆は、ぽかんと二人の姿を見送っていたが、やがてそれが見えなくなると、誰かが口を開いた。
「なあ…俺、昔からずっと気になってたんだけど…竜昌様って、下に何着けてらっしゃると思う?」
「下帯(男物)?」
「いやいやさすがに腰巻(女物)だろう」
「しかし馬にもお乗りになるぞ?」
「…何も着けてないおなごもいるらしいぞ…」
「それは誠か!?」
家来衆が夕餉そっちのけでざわめいていると、ぴしゃっと障子の開く音がして、そこには呆れ顔で立ち尽くしている家康の姿があった。
「い!家康様!!」
「何くだらないことで盛り上がってんの」
「それは…」
「でも家康様も気になりますよね!?」
半ばヤケクソで、家来の一人が家康に話をふると、家康はふいっと目をそらした。
「別に」
「えええそんなああ~」
「だって…もう見たし…」
「ええええええ!!」
夕餉の間が、家来衆の絶叫に包まれた。
竜昌が気絶したまま安土に運ばれてきた時、家康は政宗に呼び出され、竜昌を診たのだ。その時、念のため傷がないか確かめるため、家康は竜昌の身体をあらかた検分していた。
「家康さま、そ、それでどちらでしたか?下帯か腰巻か」
「…教えない」
「ええええええええええええええええええええええええええ!!!」
さらに大きな悲鳴があがる。
「やかましい、お前らも早く夕餉をすませてとっとと寝ろ」
「そんなご無体なああ」
「はやく食べないとこれを…」
家康は懐から、肌身離さずもっている唐辛子の入った竹筒を取り出すと、ポンと蓋をあけた。
「うわああああああああ」
家康がいつもするように唐辛子を山盛りかけられてはたまったものではない。
家来衆は一気に自分の膳に飛びつくと、すべて丸呑みするかのように夕餉を喉にかきこみ、慌てて部屋に戻っていった。
『やれやれ…』
あとに残った家康は、唐辛子で真っ赤に染まった夕餉を、もそもそと一人食べ続けた。