第1章 【女城主編】※共通ルート
政宗が手にした文はかなり長いものだった。辺りの者にも聞こえるように、政宗はかいつまんでその内容を口に出して読んだ。
「秋津国一同、織田方に降伏いたしたく候。我が首級、城にある武器・武具すべて納め候えど、こと兵糧のみは城下の民草のもの故、お返し願いたく候」
「秋津の男どもは忠義に厚く、女どもはよく働く也。どうか格別の御厚情をもって、尾張の民と同様のお召かかえを賜りたく候」
「さもなくば、城に火を放ち、最後の一兵まで戦い抜く所存也 藤生丹波守竜昌」
政宗は文面から顔をあげ、再び門の上の竜昌を見据えた。
「道をあけい!」
門前に配置していた兵たちが、ザっと脇にそれた。もはや信長と竜昌の間を遮るものは何もない。
信長はゆっくりと馬を進めた。家来が慌てて引き留める。
「お館様!危のうございます!罠です!」
「もしこれが罠ならば、儂が天に見放されたうつけものだという、それだけのこと」
一瞬たりとも竜昌から目をそらさず、薄い笑みを浮かべたまま、門前に一人たどり着いた信長は叫んだ。
「第六天魔王、織田信長である!そなたの願いしかと引き受けた。いざ開城せよ!!」
それを聞いた竜昌は、面鎧の下でニヤリと笑ったように見えた。
そして城門の上から信長を見据えたまま、右手を軽く上げると、それが合図だったのか、重い城門がゆっくりと開き始めた。
織田の兵たちに再び緊張が走り、門にむかってそれぞれ武器を構えるが、今度はそれを信長が片手をあげて制した。
やがて、城門の陰から、恐る恐る人影が歩いて出てくるのが見てとれた。ほとんどの者が着の身着のままの、疲れ果てた農民のように見えた。誰も武器らしきものは手にもっていない。
兵士といえるほどの男は少なく、老人、子供、乳飲み子を抱えた若い女さえいた。
「ほとんど女子供ばかりじゃねえか」
政宗はやっと、昨日までの秋津軍の戦い方を悟った。山道に誘い込んで織田軍を分断し、小競り合いばかりを繰り返していたのは、『そうせざるをえなかった』からなのだ。
織田軍の兵たちは、城から出てきた民たちを、まず門前の広場に座らせた。
そこかしこから女たちのすすり泣きが聞こえてくる。
やがて、足を引きずった老婆が孫娘に手をひかれながら城門から出てくると、また辺りを静寂が包み込んだ。
「これで仕舞いか」
信長が問うと、竜昌はこくりとうなずいた。