第1章 【女城主編】※共通ルート
「申し上げます、使者が討たれました!」
それを聞いた信長はにわかに立ち上がり、秋津城が一望できる寺の門前に出た。
満点の星空を背景にそびえたつ天守閣を、かがり火が煌々と照らし出している。
「彼奴等、城を枕に討ち死にするつもりか」
忌々しそうに天守閣を見上げる信長に、光秀と政宗も追いついた。
「ん…笛…?」
風にのって城内からかすかに届く笛の音に最初に気付いたのは政宗だった。
よく耳をすますと、鼓をうつ音や歓声までが聞こえる。まるで祭囃子のような賑やかさだ。
「最期の宴か」
光秀が感情のこもらぬ声でひとりごちた。
「…是非もない。総攻撃に備えよ」
「はっ」
吐き捨てるように命じると、信長は黒い天鵞絨(ビロード)の外套を翻し、本陣へと戻った。欲しいものが手に入らぬ苛立ちが、その背中にありありと浮かんでた。
結局、秋津城内のかがり火は一晩中灯され、宴の声は明け方近くまで続いた。
追い詰められた秋津軍の捨て身の総攻撃に備え、布陣を崩さなかった織田軍の兵たちは、それを聞きながらまんじりともしない夜を過ごした。
やがて…薄暮とともに最後の笛の音もやんだ。
立ち込めていた朝霧が晴れてくると、城門中心に城を囲むように布陣する織田軍の全貌が明らかになってきた。
兵たちは矢をつがえ、弾をこめ、息をひそめて城内の動きを見つめている。、
信長、政宗、光秀の三将は馬に乗り、城門の正面に集っていた。
そのとき、固く閉じられた城門の屋根の上に、一人の鎧武者がひょいと飛び乗った。
織田軍の弓と火縄の標的が、一斉にその武者に向けられる。
「待て!!」
信長が大音声で一喝した。兵たちは驚いて腕を下ろす。
『あの鎧は藤生竜昌か』
竜昌は、城門の上からぐるりと織田軍を見渡し、一息つくと、携えていた弓矢をつがえ、天空に向けてひょうと放った。
風のない早朝の澄んだ空気を切り裂き、矢は大きな弧を描いて信長に向かって落ちてくる。
慌てる家来達を手で制し、信長は二・三歩馬を進めると、落ちてきた矢をはしと掴み取った。
兵たちからどよめきが上がる。
飛んできた矢には文が結わえられていた。
文を手に取り、読む信長の口許に笑みが宿った。
「降伏ですか?」
政宗が聞くと、
「ああ。城と自らの命を引き換えに、兵と民草の安堵を要求してきた」
信長は文をぽんと政宗に投げてよこした。