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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第5章 【家康・前編】


「りんちゃん…」
立ち去る家康とすれ違いに、舞が竜昌に駆け寄っていった。

─── ◇ ─── ◇ ───

その夜、家康は安土城内の竜昌の部屋につづく廊下をひたひたと歩いていた。
竜昌と何を話すかは、どんなに考えても結局決まらなかった。しかし時間を置けば置くほど顔をあわせ難くなると思い、思い切って部屋を訪ねることにしたのだ。
もしかしたら競射の疲れで寝ているかもしれないとも思ったが、竜昌の部屋にぼんやり灯りがついているのが障子越しに見えた。
月の明かりが庭を照らし、どこからか鈴虫の音が聞こえる静かな夜。
近づくにつけ、竜昌の部屋からぼそぼそと話し声がするのが耳に入り、家康は足を止めた。
「…そのような…」
「…しかし…」
気付かれないように、一段と足音をひそめ、竜昌の部屋に近づいた。耳を澄ますと、竜昌と男が会話しているのが聞こえる。声の主は…秀吉だった。
「信長様のことを許してくれ。あの通り突拍子もないことを言う方だが、必ず何かお考えがあるはずだ」
「秀吉様、お手をお上げください。許すも何も、私はむしろ有難く思っております」
「そうなのか…?」
「家康様のような立派な方に治めていただければ、秋津の民も喜びましょう。私は民が幸せであれば、それが無上の喜びでございます」
「しかし…お前このところ元気なかっただろう?てっきり俺は故郷が恋しいのかと」
「恋しくないと言えば、嘘になります…」
「だよな。いいんだぞ、秋津に帰りたいと言っても」
「秀吉様、お気遣いかたじけのうございます。私は大丈夫です。一刻も早く信長様のお役に立てるよう精進するのみでございます」
「あまり無理をするな。お前はもう立派な織田家の家臣、俺たちの家族みたいなもんだ。いつでも頼ってくれ」
「あ…」
そこで二人の会話は途絶えた。
しかし家康には秀吉が何をやっているのかが手に取るようにわかった。どうせあの伝家の宝刀、大きな手のひらで、竜昌の頭を撫でているのだろう。(いつも舞にしているように)
『チッ…あの人たらしが』
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