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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第5章 【家康・前編】


政宗の言葉が終わるか終わらないかのうちにビシリと言い放つと、家康はさらに冷ややかな視線を政宗に向けた。
「なんだよノリの悪い奴だな」
「あんたたちみたいな剣術馬鹿と一緒にしないでください。俺は弓専門なんで」
『あんたたち…?』
とすると、剣術馬鹿というのには自分も含まれているのだろうか。竜昌は内心ガッカリしたが、家康の放った最後の一言に、竜昌の心は惹きつけられた。
「家康様も…ですか?実は私も一番の得手は弓なんです」
「!?」
家康の頬がぴくり、と動いた。
「マジかよ竜昌・・・剣より得意だってのか?」
もはや剣術で竜昌にかなうものはこの安土には一人もいなかった。あの政宗でさえ、気を抜けばコテンパンにやられてしまうほどだ。
その剣術より上手とは…政宗の顔が蒼白になる。
突如、信長のよく通る声が広間に響き渡った。
「面白いではないか!」
信長は満面の笑みだ。新しい玩具をみつけた子供のように、その緋色の眼がキラリと光る。
「そういえば秋津でも貴様の弓を見たな」
秋津での戦いの折、城門の上から 寸分狂わず信長のもとに矢文を打ち込んだ腕は、今でも織田軍の語り草になっている。
家康はその戦には参加していないが、噂だけは政宗たちから聞いていた。ふと竜昌のほうを見ると、興味深そうにこちらを見つめる竜昌と目が合った。慌てて視線をそらす。
「よし。競射(きょうしゃ)をするぞ」
競射とは、弓の腕前を競う試合のことである。
「各家で腕利きの者を一人ずつ選ぶのだ。織田からは貴様、竜昌だ」
「は、ははっ」
「その腕の傷、五日で治せ」
「!?」
突然信長に指名され面食らうが、こうなったら信長はもう後には引かない。
「ククッこれは見物だな」
「うちは誰を出そうかなあ」
「家康様の腕前を間近で見れる日が来るとは。楽しみです」
「…三成、お前は黙ってろ」
家康の顔は、いつもの仏頂面を通り超えて、まるで『心底くだらない』と筆で書いてあるかのようだった。
先ほどまでは、やっと家康と共通の話題を見つけたと内心浮足立っていた竜昌の気持ちも、あっという間に萎んでしまった。

─── ◇ ─── ◇ ───

五日後。晴天の秋空のもと、予告どおり安土城で競射が催された。




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