第1章 【女城主編】※共通ルート
すっかり日も暮れたころ、陣幕の隙間から音もなく滑りこむようにして一人の武将が現れた。
白銀の髪が揺れる頭には兜もかぶらず、戦場の最前線にしては軽装だが、その肩に重厚な火縄銃を担いでいる。
「遅くなりました」
「大儀であった光秀。首尾は上々のようだな」
「はっ」
明智光秀は、今回の戦も後方攪乱の情報戦を担っていた。間者を放ち、敵兵や民衆の中にもぐりこませ、偽の情報を流すのだ。
『織田軍は兵も民も問わず 耳と鼻を削いだうえに皆殺しにするらしいぞ』
『裏切者の〇〇が織田軍を手引きしているらしい』
『西国から徳川家康の率いる一万の大軍が援護にむかっているだって!?』
もともと小さな国衆の寄せ集めで作られた高城の軍勢は、流言飛語に いとも簡単に浮足立った。
「家老の大井率いる本隊がついに退却しました。しかし城内にはまだ秋津軍が残っています。数は千足らずかと」
「そうか。政宗、使者をつかわせ。いま降伏するなら命は助けてやると」
「御意」
政宗が、家来に指示を出しに立ち去った。
「信長様、かの藤生竜昌はご覧になりましたか」
「応、噂にたがわぬ猛将であった。政宗はまだ戦い足らぬとぼやいていたがな」
秋津城主・藤尾竜昌は剛の者としてその名が知れ渡っていた。高城軍の将として出陣した幾多の戦で負け知らず、討ち取った武将の首は数知れず。
織田軍もやっとたどりついた城下町の入り口で、竜昌ひきいる小隊にさんざん痛めつけられていた。
矢にも鉄砲にもひるまず、巧みに馬を駆り、地の利を生かして攻撃をしかけ、決して深入りはせず機をみて引く。百戦錬磨の信長の目にもかなりの戦上手と映った。
「まだ若いのではなかったか。末恐ろしい武将だ」
「先代の由昌に息子がいたという話は聞かぬので、おそらく養子でしょう。齢はしかとわかりませんが、家督をついでまだ四年ほどです」
「ふむ」
信長は片手で顎をなでながら、にやにやと笑っている。楽し気な信長を見て、光秀も頬をかすかに歪めるように笑った。
「さて。天下の名城と勇将。同時に手に入れることができましょうや」
「そのためにここに来ておる」
「捕らぬ狸の皮算用という言葉もございます故」
「よう言うてくれるわ、光秀」
信長は呵々大笑した。冗談ともつかない辛辣な言葉を信長に言えるのは、安土広しと言えども光秀だけだった。
そこへ家来の一人が甲冑を鳴らしながら走ってきた。