第21章 【光秀編】#3 君に捧ぐは
「兄貴、こいつどうしやすか」
「まあどっちでもいい。女だったら犯すし、野郎だったら痛めつけてやるまでよ。ああいった御仁はな、自分が傷つけられるより、目をかけたモンが傷つけられるほうがよっぽど堪えるってもんさ」
「へへっ兄貴もいいご趣味で」
「グッ…」
男たちが何者かはわからない。しかし私を人質に、光秀様になにか脅しをかけようとしているようだ。このままでは光秀様が…
意識を失ったあの時、胸に抱えていたはずの種子島も、腰に提げていた備前も、どこにあるのかわからない。自分の力ではどうしようもないと悟り、絶望に落ちいりそうになったそのとき、男たちが色めき立った声をたてた。
「おい、来たぞ!」
「一人か?」
「そうみてえだが油断はするな」
にわかにあたりが騒がしくなった。幾人かの男たちの怒声や、刀を抜く音。
私は必死に首をまわして辺りを見た。しかし動けない身体では、目の前の粗末な土壁に、行灯で照らされた男たちの影が右へ左へ動き回るのが見えるだけだった。
急に、その場がシンと静まり返った。そこへ先程「兄貴」と呼ばれていた男の声が響く。
「よお、明智の旦那」
『光秀様ッ!!』
光秀様がここにいる。身体をねじって振り返ろうともがくが上手くいかず、声のする方を見ることができない。
「文のとおり、一人できたようだな」
「ああ」
感情を抑えた、低く くぐもった声。間違いない、この声は光秀様だ。一人で!?どうして…
「見上げた度胸…と言うべきか、余程の馬鹿か…」
フンッと鼻で軽く笑った男の言葉を遮るように、光秀様が問いかけた。
「望みはなんだ」