第21章 【光秀編】#3 君に捧ぐは
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(文は届けたか)
(へえ、ぬかりなく…)
(動きは…)
遠くで男たちの声がする。
薄れていた意識が、じわりじわりと戻ってくる。
肩や頬にあたる、固く冷たい地面の感触。湿った土の匂い。どうやら私は、土間のような所に転がされ、気を失っていたようだった。
辺りを確認したかったが、まるで二日酔いのように頭がグラグラとして、目をあけることすらできない。
『ここはどこだろう…光秀様の御屋敷を出て、その後…』
(…女と聞いていたが、男じゃねえか…)
(いや兄貴、こう見えてコイツ…)
誰が何の話しをているのかはわからないが、下卑た笑いが耳に障った。
「…女ですぜ」
「はぁ?」
「!!」
男の言葉に反応して、ビクリと肩が震えてしまった。
「おう、目が覚めたか兄…ねえさん、か」
一人の足音が、背後から近づいてきた。
振り返ろうともがいたが、身体が全く動かない。手首は背後でひとまとめにされ、麻縄のようなものがきつく食い込んでいる。両足もがっちりと縛られているようだ。
「おっと、大人しくしててくれよ?」
生々しい男の吐息を耳元に感じ、両腕が粟立った。
それと同時に、首筋にひやりと冷たいものが当たる。間違いない。これは刀の切っ先だ。
「暴れると手元が狂うかもしれねえからな。だがな、こちとらアンタにはもうちょっとだけ生きててもらわないと困るのよ」
「クッ…」
やっと状況が飲み込めてきた。
どうやら私は、何者かにかどわかされたようだ。
「しかしまあ、明智の狐もいい趣味してやがんな」
明智の狐…?光秀…様?
「どんなに身辺探っても女の影ひとつ見えないと思っていたら、女に男の恰好させてたとはな」
卑劣な言葉に、胸がむかむかとする。しかし動けない今は、耳をふさぐことも、この場を離れることもできない。