第20章 【光秀編】(おまけ)城代家老・水崎一之進の憂鬱 その2
菊は腕を組んで、う~んと唸りながら考え事をはじめた。
「う〜ん御礼か…こんな場合、常套手段は手作り料理。しかも慣れない主人公が、がっつり焦がした消し炭のような料理を、攻略相手が美味しそうに食べる所から…」
「お、おい…」
「でも、あまりの手際の悪さに、城の炊事番から厨への出入り禁止をくらったりんのこと。安土のお城に火でも付けた日にゃ、御礼どころか市中引き回しの上、打首獄門だわ…」
「…出入り…打ち首…?」
尋常ならざる言葉に、一之進はどっと汗が吹き出るのを感じた。
「さもなければ、定番の手縫いの着物。だけど、あの娘が今までに折った縫い針を集めたら、刀が1本できそうなくらいだし…」
「はは…」
「あとは、よくある攻略相手が何の気なしに摘んできた野の花を、大事に押し花にして、しおりにして」
「…?」
「ふとした拍子にそれが本から落ちて、『あれはあの時の…』ってなるやつね?しかしなんで主人公は、花とみたらすぐしおりにするのかしら?」
「ん、んん…?」
「あとその花、日本に渡来してきたの、江戸中期ですから!そこんとこ夜露詩句!!」
「お、おう…(江戸…?)」
誰に聞かせるでもなく、何事かを虚空にむかって叫んでいた菊が、急にくるりと振り返り、一之進はごくりと唾をのみこんだ。
「ね、というわけであなた、光秀様へのお礼には何を差し上げたらいいと思う?」
「え、あ、はあ、俺!?!?」
「そうよ。他に誰がいるのよ」
「いやでも…」
「殿方から見て、何を御礼にもらったら嬉しい?黒こげか、着物か、しおり以外でお答えください!」
「う、ぐ…」
じりじりと一之進に詰め寄る菊の目は、すでに据わっている。
一之進は疲れた頭で必死に考えた末、自信なさげに小声で答えた。
「そ、そりゃあ種子島の技を授けてるんだ、腕を上げてくれるのが一番嬉しかろう…?」
ドサッ
菊の身体が、布団の上に崩れ落ちた。