第20章 【光秀編】(おまけ)城代家老・水崎一之進の憂鬱 その2
菊は震える手で、掴んでいた書状を一之進に手渡した。
一之進は、梓をそっと布団に下ろすとその書状を受け取り、丁寧にしわを伸ばしてから、行燈の灯に透かすようにして読み始めた。
「これは…竜昌から?」
「そうなんです!あの子が!ついに!」
書状は竜昌が菊にあてたものだったが、内容は『光秀様に種子島を習っているので、その御礼がしたいが、何をすればいいだろうか』という相談だった。
しかも菊のみならず、義兄である自分にも聞いてほしいと書き添えてあった。
「まさか、この光秀様というのは、織田殿の片腕、明智の…」
「それ以外にあるわけないでしょ!」
ぴしりと言われて、一之進は肩をすくめた。
「あのりんがですよ!?」
「あ、う、うん」
「自分より強い御方でなければ婿にはいらんと言った、あの子が!!!」
「そ、そうであったな」
「種子島の教えを乞うているということは!?」
「いうことは?」
「あぁんもう!相変わらず鈍いわねっ!」
菊は手のひらでバーンと勢いよく布団を叩いた。
一之進は剣幕に推され、たじたじと布団の上を後ずさる。
何を隠そう、秋津国でも一・二を争う朴念仁と評判の一之進である。前城主の姫である菊と夫婦約束をするにいたるまでの間、ぐいぐいと迫り来る菊(一目ぼれだった)の攻撃に一年近くも気付かなかったという逸話(?)の持ち主だ。
一之進はいたたまれずに、ちらりと横を見た。
隣の布団でぐっすりと寝入っていた上の二人の娘が、この騒動で目を覚まさないかと心配したが、杞憂だったようだ。誰に似たのか豪胆な娘たちは、すやすやと寝息をたてていた。
「やはり、さすが明智様。ゼッッッタイににあの子の好みだと思ったのよね…」
「お、おう?」