第20章 【光秀編】(おまけ)城代家老・水崎一之進の憂鬱 その2
ところ変わって、ここは秋津城下。城主の竜昌不在の間、城をあずかる城代家老、水崎一之進の屋敷である。
今日の一之進は、城でのこまごまとした雑務を終え、駐留している伊達軍の部隊長との会談、そのあとの酒宴もそつなくこなし、へとへとになって帰ってきたばかりだった。
もう妻の菊(=竜昌の姉)も子供たちも寝ている頃だろうと、足音を忍ばせて廊下を歩いていると、奥のほうからトトト…と可愛らしい足音が近づいてきた。
「とーしゃま」
「おや、梓じゃないか。まだ起きておったのか。母様はどうした?」
現れたのは、ふたつになったばかりの末娘の梓だった。
「かしゃま、ねんね」
「ねんね?先に寝てしまったのか?」
一之進は、まだふわふわの綿布団のように軽い梓の身体をひょいと抱き上げると、寝間の戸をあけた。
そこには母娘の分の布団が敷かれ、小さな行燈の火が灯っていた。
そして一之進の目に飛び込んできたのは、その布団の上で、まるで土下座をするかのように、頭を抱えこんで蹲っている菊の姿だった。(現代でいう「ごめん寝」の体勢である)
「ッ菊!菊!!どうした!具合が悪いのか!」
慌てて駆け寄り、菊の背中に手をあてて揺する。
よく見ると、その手には、くしゃくしゃになった書状が握り込まれている。
「オイ、菊!!!」
「ハァ…尊い…」
「!?」
半ば強引に、その肩に手をかけて上を向かせと、菊はとろんと蕩けたような目で一之進を見上げた。その睫毛は濡れ、頬はまるでのぼせ上がったように真っ赤である。
「どうした!?熱か!?」
菊は潤んだ目を伏せながら、ふるふると首を振った。
「…萌え死んでました…」
「なっ、も?もえ、し…?」
「これを…」