第19章 【光秀編】#2 月夜の兔は何見て跳ねる
「かたじけのうございます。それと…今日は九番隊の方々とお会いしました」
「それは上々」
光秀様は目を細め、悪戯をしかけた子供のようにニヤリと笑った。
「おかげで男には少し慣れたか?」
「んなっ!?」
いつものように揶揄われたと知って、あっという間に顔が熱くなる。今まさに月が小さな雲に隠れている。赤くなったのがバレていないといいんだけど。
「みっ、皆、子供です…」
「ははっ」
珍しく、光秀様が口を開けて愉快そうに笑った。それを見た私までつい口がほころんでしまいそうになったが、ごまかすために軽く咳ばらいをして背筋を伸ばした。
「佐々木殿からお伺いしました。皆、親を亡くした子供たちだとか…」
「うん」
「皆、立派に励んでおられました。『いつか殿にご恩返しをするのだ』と」
「そうか、それは楽しみだ。まあ、せいぜい子育ての真似事でもするさ」
そう言いながらくすりと自嘲的に笑うと、光秀様は再び庭に視線を落とした。
いつも隙の無い、冷ややかな瞳が、今日は何かを慈しんでいるかのように優しく見えるのは、月明りのせいか、それとも九番隊の子供たちを想っていらっしゃるせいなのだろうか。
昼間、握り飯を頂きながら、佐々木殿がぽつりぽつりと話してくれた。
光秀様は幼いころからその才覚を認められ、本家筋へ御養子に出されたこと。戦で養父様を亡くし、明智家の御家督を継いだころには、すでにご両親も亡くなっており、御兄弟もおらず、今は天涯孤独の身の上であること。
私も両親を亡くしているけど、光秀様のご苦労とは比べるべくもない。私には姉も義兄も姪たちもいたし、秋津城の家臣たちも民草も、みんな私に良くしてくれた。
光秀様が身寄りのない子供たちを引き取っていると聞いて、子供たちの存在が光秀様の孤独を癒すことを祈らずにはいられなかった。
その時、月を隠していた雲が晴れ、月光がさっと縁側に射し込んだ。