第19章 【光秀編】#2 月夜の兔は何見て跳ねる
「りん殿もおひとついかがかな?麦飯ですが」
「よろしいのですか?」
「どうぞどうぞ」
「では遠慮なく…」
私も片手にあまりそうなほどの大きな握り飯を頂いて、佐々木殿の横に腰を下ろした。握り飯はまだほんのり温かくて、ちょっとだけしょっぱかった。
「はははっ、奴らもこうしていると、ただの童のようじゃろ?」
修練の手を休め、あちこちで腰を下ろして握り飯を頬張る少年たちの顔は、さらに幼く見える。
「みんなの齢は?」
「そうさなあ・・・ほれ、あの大二郎が一番年かさで、十七じゃったかの。一番若いのは十ぐらいか」
「なるほど」
全員、十九の私より年下ということか。道理で幼く見えるわけだ。
「いつもこうして握り飯を振る舞っているのですか?」
私が聞くと、佐々木殿は目を細めて少年たちを眺めながら、小さく頷いた。
「この者たちはな、みな領内の争いで親を亡くした百姓の子じゃ」
「は…?」
「こういう子たちは、放っておけば飢え死にするか、野盗のまねごとをして生きていくしかない。それを御館様は引き取って、鉄砲足軽に育てようとなされておる」
「そうだったのですね」
「我が殿は酔狂だと思われるかな?」
「いいえ?大変御立派なことだと思います」
私は胸の中がふわりと温かくなるのを感じた。いつも冷ややかな笑みを浮かべ、秀吉様には皮肉めいたことしか言わない光秀様の、また違った一面を見た気がした。
その後、互いに教えたり教えられたりしながら修練に汗を流し、私は九番隊と別れて安土に戻った。
その道すがら、次に光秀様にお会いしたときは、どんなことを話そうかと考えていると、疲れているはずの足も軽かった。
九番隊の面々と仲良くなったこと、佐々木殿から聞いた、光秀様の初陣でのご活躍の話──────
安土城下に着くころにはすっかり暗くなってしまったけど、せめて修練を終えたことを報告しようと、私は光秀様の御屋敷に立ち寄った。
今度、出迎えてくれたのは女中さんだった。女中さんはニコニコと笑いながら『殿様がお戻りですよ』と教えてくれた。