第19章 【光秀編】#2 月夜の兔は何見て跳ねる
私がお辞儀をすると、佐々木殿は破顔した。
「いやぁ、このような所でお会いできるとは恐悦至極。お噂はかねがね、藤ぅ…」
「あの、りんです!りんと申します!まだ種子島については若輩者ですので、よろしくご指導お願い申し上げます!」
佐々木殿の言葉を断ち切るように、大声で挨拶をする。佐々木殿は驚いたようにその皺だらけの目をぱちぱちと瞬いていたが、やがて事情を理解してくれたようで、いくつか歯の抜けた口でニッと笑った。
その後も、九番隊の人懐っこい少年たちは、突然現れた私という珍客に興味津々だった。
「りんの種子島すげえな~かっこいいなあ」
「えへへ、これは日向守様からお借りしたんです」
─────嘘、本当は頂いたんだけど。
「俺にも持たせてくれよ!」
「ぼくも!」
「ぼくにも~!」
私のまわりにあっというまに少年たちが群がる。
「お~い、真面目にやんないと、オジジにおこられんぞ」
「誰がオジジじゃ!!」
「ひゃあ~」
佐々木殿の一喝に、少年たちが笑いながら散らばる。
このように少し気を抜くと、可愛らしい子供の表情を見せるが、種子島を構える少年たちの顔は真剣そのものだった。
私も少年たちに負けじと、皆に混じって順番に種子島を撃った。
やがて日も高くなり、こめかみに汗がつたいはじめたころ、木陰で修練の様子を見ていた佐々木殿が立ち上がった。
「さて、そろそろ飯にするぞ~」
「はーい!!」
号令とともに、少年たちが一斉に佐々木殿に群がる。佐々木殿が手桶を開けると、そこには竹の皮で包まれた大きな握り飯がぎっしりと詰め込まれていた。
「わーい!!」
「いただきますっ!」
あちこちから泥だらけの手が伸び、我先にと握り飯を取っていく。