第19章 【光秀編】#2 月夜の兔は何見て跳ねる
少年もそれに気付いたのか、威嚇をやめて種子島を下ろした。そして、いぶかしげな顔を崩さないまま、のしのしと歩いて近寄ってきた。
「俺は明智家鉄砲隊、九番隊長の大二郎だ」
身なりは百姓だが、大二郎の名乗りは堂々としたものだった。日に焼けた頬に、ぴりぴりと緊張が走っているのが見て取れる。
私は姿勢を正し、頭を下げた。
「ご無礼をお許し下さい。私は織田家仕えの…りん、と申します。日向守様(光秀のこと)のお許しを得て、こちらで種子島の修練をさせていただくことになりました」
私は咄嗟に、藤生竜昌ではなく「りん」と名乗った。
大二郎は、まるで品定めをするように私の全身を眺めた後、肩に担いでいる種子島をちらりと見た。
改めて見ると、大二郎はこの少年たちの中で一番大きいといっても、ほんの少し私より背が高い程度で、髭もまだうっすらとしか生えていない。
「九番隊の皆様と一緒に修練に励めと仰せつかってきました。私も参加させていただけませんでしょうか?」
「むう…」
困ったように眉根を寄せる大二郎。
いつのまにか、少年たちがわらわらと集まり、私たちのまわりに人垣を作っていた。
幾十ものキラキラとした瞳に物珍しそうに覗き込まれ、たじろいでいると、人垣のむこうからのんびりとした声が聞こえた。
「お~いお前たち、何をしている?」
「あっ、いけね。佐々木のオジジだ」
少年たちの人垣が割れ、そこに姿を現したのは、腰もやや曲がりかけた白髪の老人だった。老人は私を見つけると、その皺に埋もれそうな目を大きく見開いた。
「やあやあ、これはこれは…あなた様のことは殿から伺っております」
老人は意外にもしっかりとした足取りで、つかつかと私の前までくると、まじまじと私の顔を仰ぎ見た。
「お初にお目にかかります。某(それがし)は、佐々木仁右衛門と申す者。殿よりこの九番
隊の世話を仰せつかっております」
「佐々木殿ですね。お邪魔いたします」