第19章 【光秀編】#2 月夜の兔は何見て跳ねる
「よしっ」
気合を入れ直すために、パチリと頬を叩いてから、私は光秀様のお屋敷の門を叩いた。
出迎えたのは光秀様の御家人だった。種子島の修練場を使わせていただきたいと申し出ると、光秀様がすでに話を通して下さっていたようで、二つ返事で了承してくれた。
「今日は修練場に九番隊がいるはずです。仲良くしてやってください」
そう御家人殿が言った。九番隊?光秀様お抱えの鉄砲隊かな?
私は礼を述べてから、種子島を肩に担ぎ、修練場に向かって走った。いつもは光秀様と馬を並べていくけど、今日は足腰の鍛錬もかねて走っていく。戦場ではさらに甲冑を着て駆けるのだから、これくらいでへこたれてはいられない。
前回は舞様がいらっしゃったおかげで…いや、人のせいにするのはやめよう。私の集中力が足りないせいで、修練にまったく身が入らなかった。今日こそはそれを取り返すんだ。
「…?」
修練場に着くと、そこにはなんと沢山の男…いや、少年たちがいた。みんな十五かそこらにしか見えない幼い顔つきで、身なりは…侍というよりも、日焼けした百姓のようだった。
少年たちはみな誇らしげに肩に種子島を担ぎ、順番に撃ってはきゃいきゃいと騒いでいる。
乱れた息を整えながらその様子を遠巻きに見ていると、少年の一人が私の姿に気付き、中央にいた一等体格のいい少年に何かを告げにいった。
その少年がこちらを振り返った。その途端。
「誰だ!」
少年は手に持っていた種子島を私に向けた。その声でに驚いた少年たちが、一斉に私のほうを見る。
「!?」
私はあわてて、敵意がないことを示そうと、両手を上げた。
「わ、私は…」
そう言いかけると、私の声を聞いた少年たちがざわめいた。
「おなごか!?」
「おなごだ!」
種子島を構えた少年は、怖い顔をしたまま、私に狙いを定めている。
しかしよく見ると、その少年のもつ火縄に、火は入っていなかった。これでは弾が出るはずもない。私はほっとして両手を下ろした。