第19章 【光秀編】#2 月夜の兔は何見て跳ねる
「あ…危のうございます」
つい声が出てしまった。
「えーなんでー?」
「女子(おなご)が持つものではございません」
「でも、りんちゃんだって撃ってるわけでしょ?」
「ぐ…」
「どうして私はだめなの?」
「それは…」
それを言われてしまうと、返す言葉がない。
「わ、私も女子ですが、侍です。侍は、舞様のようなお方や、民草を守るために・・・」
「私だってこの乱世に生きる一人として、自分の身は自分で守れるようになりたいの」
「ですが…」
「光秀だって、前にそう言ってたよね?自分の身は自分で守れって」
「しかし…」
困った私は、光秀様を仰ぎ見た。光秀様は、舞様の申し出になんと答えるのだろう。
今にも張り裂けそうなほど、胸がドキドキしている。
光秀様は、涼し気な眼差しでちらりと私を見たあと、また視線を舞様に戻し、小さく笑った。
「・・・いいだろう」
「!?」
「わーいやった!」
可愛らしく、両手を挙げて喜ぶ舞様。
その一方で、私の心臓は、氷水をかけられたようにギュッと縮み上がった。
私だけが光秀様の特別だと思い上がっていたことが、恥ずかしかった。
「ちょっと待っててね!急いで食べるから!」
「先に行っている。大手門で待つ」
「はーい!」
スタスタと歩いて行ってしまう光秀様の背中が、なぜかとても遠くに感じられた。
「おまたせーっ!」
しばらくして、珍しく野袴(のばかま)を履いた舞様が、大手門の前にやってきた。たすき掛けをした袖から覗く腕は、とてもじゃないけど種子島を扱えるとは思えないほど白く細かった。