第19章 【光秀編】#2 月夜の兔は何見て跳ねる
「いただきます!」
美しく盛り付けられた朝餉を前に、パシリと手を合わせる。
私の横で光秀様は、その絹糸のような睫毛を伏せて静かに会釈すると、箸を手にした。
私も負けじと箸と汁椀を手にとり、ご飯の上から汁ものを一気にぶちまける。
「あ~あ」
政宗様が小さくため息をつく。ごめんなさい政宗様、今日だけは許して下さい。
今日は待ちに待った、光秀様との種子島の修練の日。
この日だけは、朝から安土城に迎えにきてくださる光秀様をお待たせしないように、光秀様の真似をして汁かけ飯を食べるのが、ここ最近の習慣になっていた。
「まったく、そんなところまで似なくてもいいのに」
秀吉様が苦笑する。それでも秀吉様は、私の修練がうまくいっているか、光秀様に意地悪をされていないか、いつも気遣って下さる。
光秀様は、まるで息をするかのように絶え間なく私を揶揄ってくる。でもそれは私の緊張をほぐしたり、私が気付いていないことをそれとなく促したりするためだ(と信じている)。意地悪では決してない…多分。
「…馳走になった」
「へいへい」
「美味かったぞ」
「お前に料理の味などわかるものか」
「俺にわからずとも、竜昌が頬張ってる顔を見れば、わかる」
「ングッ」
私は最後の一口を飲み込むところで、咽かけた。政宗様の作って下さる朝食はいつも美味しい。それを流し込むのがもったいないとは思っていたけど、そんなに顔に出ていたかしら?
なんとかその一口を飲み込んで、政宗様にご馳走様とお礼を言おうとしたとき、突然 横から舞様の声がした。
「ねえねえ。二人とも、今日は種子島の練習なんだよね?」
「はい…?」
私がそう答えると舞様は、すでに食べ終わって立ち上がりかけたていた光秀様に視線を移し、上目遣いで見た。
「ねぇ光秀。私にも種子島の撃ち方、教えてくれない?」
突然、砂を飲み込んだかのように胃の腑あたりがずしりと重くなった。
せっかくの光秀様との二人きりの時間が・・・
光秀様を見ると、いつものように唇に薄い笑みを浮かべながら、楽しそうに舞様を眺めている。
光秀様の考えていらっしゃることは、なかなか読めない。