第18章 【光秀編】#1 これでは、まるで
姉上があんなこと言うからだ。
何もかもを姉上のせいにしたい気持ちを抱えて悶々としながら、結局 私はろくに眠ることもできずに次の朝を迎えた。
安土でも名うての武将である光秀様に種子島の撃ち方を教えてもらえるなんて、もしかしたらあれは夢だったのではないのか、と何度も考えた。
しかし 光秀様に撫でられたときの感覚が、確かに肌に残っていて、それを思い出すたびに顔が熱くなった。
私は熱を冷ますために まだ冷たい井戸水で顔をじゃぶじゃぶと洗った。
「皆様、おはようございます…あっ」
膳が並べられた食堂をのぞきこむと、そこには御館様をはじめとした武将方と舞様がいつものように居並んでいた。そこに珍しく光秀様の姿を見つけ、私は思わず声を上げてしまった。
この城では、よほどの用がないかぎり、御館様と武将方とが一緒に朝餉をとるのがならわしになっている。しかし私がこの場で光秀様を見たのは初めてだった。
私は、まるで用意されていたかのように空いていた、光秀様の隣に座った。
「光秀様、おはようございます、」
「約束通り、迎えにきてやったぞ」
光秀様は横目で私を見て、ニヤリと笑った。
すると、それを見とがめるように秀吉様が視線を送る。
「何を企んでいる、光秀」
しかし光秀様は涼しい顔をしたまま、それをはぐらかした。
「別に、何も?」
反対側に座っていた政宗様が、ニヤニヤしながら私の顔をのぞきこむ。
「アイツとなんの約束をしたんだ?竜昌」
「いえ、あの、種子島を教えていただく約束を・・・」
「へえ~?どういう風の吹き回しだ?光秀」
今度は政宗様が、からかうような視線を光秀様に向ける。
光秀様は動じず、微笑でそれに答えた。
「前に三成に指南を頼まれたときは、瞬く間に断わっていたじゃないか」
え、そうなんだ…?
私は涼しい顔の光秀様を振り返った。
「当たり前だ。俺だってまだ命は惜しい」
「まあ確かに…三成に鉄砲を持たせたら、命の保証はしかねるな」
「ええ~お二人ともひどいです~」
そう言って、くすくすと笑う三成様。
そこから、武将方の種子島談義に花が咲いた。どこそこで作られたものが質がいいだとか、あそこの家臣が腕がいいとか。やはり種子島は当世注目の武器なのだ。