第17章 【信玄編・後編】※R18※
「よお、安土の銀狐。久しぶりだなあ?」
信玄が片頬だけを上げてニヤリと笑った。
「久しぶりだな、甲斐の虎…いや、今じゃあ猫か?」
負けずに光秀も応戦する。
横にいる幸村が、むっとした表情で光秀を睨みつけた。
「安土での物見遊山は楽しめたかな?」
「ああ、おかげさんでね」
二人の間に緊張した空気が走るが、なぜかその顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「御館様のおなり」
謁見の間の入り口で、家臣が声を上げると、一同が平伏した。光秀と姫も軽く頭を下げる。
謙信は小姓とともに謁見の間に入ると上座にすわり、その白金の髪を一度かき上げると、色違いの眼で光秀と姫を見据えた。
「関東管領、上杉弾正である。遠いところをよく参られた」
「はっ。ご尊顔を拝し、誠に恐悦至極に存じます。某は 明智日向守。本日は我が主、織田権大納言の名代としてまかりこしました」
信玄に対する態度とはうってかわって、慇懃無礼な挨拶をする光秀に向かって、信玄は舌を出した。
「かねてよりの同盟締結のお約束通り、我が主の娘、竜(たつ)姫をお連れいたしました」
光秀がそう言うと、姫はその後ろで三つ指をつき、深々と頭を下げた。
謙信の眉根がぴくりと動く。
「おい、そこの女。いつまで頭巾をかぶっているつもりだ。無礼であろう」
姫は黙ってうなずくと、頭巾に手をかけ、するするとそれを外した。
広間の一同から「ほう」とため息が漏れる。
頭巾の下から現れたのは、抜けるような白い肌に、艶やかな漆黒の髪を持つ、美しい姫君だった。
「りん…」
突然、ふらりと立ち上がった信玄に、広間中の注目が集まる。
光秀は、呆然とする信玄の顔を見て、まるで悪戯が成功した悪童のようにちらりと笑った。