第17章 【信玄編・後編】※R18※
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そのころ春日山城内の謁見の間では、信玄は何が面白くないのか、ぶすっとした顔で座っていた。
隣の幸村がその顔を覗き込む。
「どうしました御館様」
「うーん。人質などいらぬと言ったのに。どういうつもりだ信長…」
「いいじゃないですか。あいつも一筋縄ではいかない男、くれるというなら病気以外はもらっておきましょうよ」
「人質っていうよりも、まるで『御目付け役』が付くような気分だ」
「姫さんなんでしょ?あいつに娘がいるとは知りませんでしたが…」
「俺も知らん。いたとしても、あいつの齢から言ってまだ子供だろうし。寄越してくるのはどうせ養女だろうな」
「あいつによく似た鬼姫が来たら、傑作ですね」
珍しく冗談めいたことを言う幸村を横目に、信玄は胡坐を組んだ上に肘をのせ、頬杖をついた。
織田の姫とやらに興味はないが、会ったら聞いてみたいことがあった。
『アイツは元気かな…』
やがて小走りの足音がして、上杉の家臣のひとりが、客人の到着を告げた。
謁見の間に集められていた重臣たちがにわかにざわつく。
やがて現れたのは、美しい銀髪と狐のように鋭い琥珀の眼をした長身の武将・明智光秀だった。
その後ろに付き従うように、初夏らしい爽やかな萌黄の小袖を着た姫君。しかしなぜか頭巾をかぶっていて、その顔は見えなかった。
光秀と姫は、広間の中央に腰を下ろした。姫は手に捧げ持っていた細長い桐箱を、ゆっくりと床に下ろす。
そこへ、手に手に贈り物をもった従者たちが続き、二人の後ろにこれでもかとばかりに積み上げていった。