第17章 【信玄編・後編】※R18※
─── ◇ ─── ◇ ───
安土城の謁見の間は、一瞬の沈黙の後、弾けるような爆笑によって支配された。
笑い声の主はもちろん、上座にすわる信長。扇で口元を隠しながらも、さも楽しそうに、天井を仰いで笑っていた。
同席していた秀吉と三成の二人は、ぽかんと呆けたように竜昌を見つめている。
響き渡る笑い声の中、竜昌だけが真剣な顔で信長を見据えていた。
「竜昌…本当なのか…?」
秀吉がやっとのことで口を開いたが、その額には皺が寄っている。
竜昌は真剣な顔でこくんと頷き、自分の目の前に置いてある太刀に目をやった。
「失礼します、竜昌様」
三成はにじり寄り、太刀を手にとると慣れた手つきで鞘から抜き放ち、その刃をしげしげと眺めた。
身幅は広く先反りのついた刀身。刃文は中直刃に小乱れ交じり。細かく詰んだ小板目肌。赤漆の鞘には、箔押しで武田家の家紋が描かれている。
「…確かに、来国長のようですね。信玄公の愛刀です、秀吉様」
三成がそう秀吉に告げると、秀吉はう~んと唸りながら腕を組んだ。
一方の信長は、目に涙を浮かべながら、いまだに笑っている。
「ハハッ!傑作ではないか。武田の残党狩りにいったと思いきや、その武田と和睦を結んで帰ってくるとはな」
「信長様…」
「して竜昌よ、もし俺が【否】と言うたら、どうする?」
「!!」
信長は、意地悪そうな目線で、口元にかざした扇の上から竜昌を見下ろした。
竜昌は驚いたように目を見開いたが、ひるむことなく信長の真紅の瞳を見つめ返した。
「先ほども申し上げましたとおり、武田と結べば、上杉はおろか、顕如とでさえも繋ぎをつけることができます。これは信長様の目指す、天下布武への大きな足掛かりとなるはずです。信長様がこの利を見逃すはずはないと考えました」
「ふふん、言いよるわ」
「もしそれでも、否とおっしゃられるのであれば、その時は、この私めを…」