第17章 【信玄編・後編】※R18※
「おー」
幸村も口に出しては言わなかったが、わかっている、とその優し気な薄茶色の眼は語っていた。
「では、いこうか」
馬に跨った信玄は、ことさら大きく、凛々しく見えた。
竜昌は眩しそうにその姿を見つめながら、片手をあげ見送ろうとした。
しかしその時、竜昌の愛馬・春雷がとことこと歩いてきて、去ろうとする信玄に近づいた。
「ん?お前もお別れを言いにいきてくれたのか?」
春雷がブルルと、返事をするように鼻を鳴らす。
「お前にも世話になった。ありがとうな」
信玄が手を伸ばし、春雷のたてがみを撫でようとした。すると、春雷は歯をむき出しにして、その腕にかぷりと噛みついた。
「あ、馬鹿!春雷!」
慌てて竜昌が駆け寄り、春雷のハミを引っ張る。
「ごめんなさい、この子 噛み癖がまだ直ってなくて…」
「ハハ、甘噛みだから大丈夫さ」
「…どうも、好きな人を噛んじゃうんです」
「これは名馬に好かれたものだ。いつでも我が軍の騎馬隊に歓迎するよ」
その言葉を聞いた武田・織田両軍から、笑い声がおこった。
信玄と竜昌の頬にも、はにかんだ笑みが浮かんだ。
こうして、信玄と幸村は兵たちとともにその場を後にした。
竜昌は、その姿が完全に見えなくなるまで見送ると、織田軍を振りかえった。
「兵吾」
「ははっ!」
「此度の和睦、そなたと、この来国長が証人だ」
「!!…もったいなきお言葉」
「さ、我々も帰ろう、安土へ」
「応!!」
織田軍の兵たちが、拳を宙につきあげて竜昌に応えた。