第1章 【女城主編】※共通ルート
戦のあと─────
空には宵の明星が輝き、両軍ともに兵を引いた秋津城下の空気はしんと静まりかえっていた。
城下町のはずれにある寺に本陣を置いた織田軍は総勢約五千。兵たちの顔には隠し切れない疲労の色が浮かんでいた。
「やっとここまでたどり着きましたな」
政宗は、自らの馬を信長に寄せ、そう声をかけた。
「うむ…思いのほか手こずったが…」
信長は宙に据えたその緋色の瞳を動かすことなく、ニヤリと笑って政宗に答えた。
「噂通りの美しい城よ」
信長が見上げるのは、断崖の上に立つ秋津城の天守閣。
難攻不落とうたわれた城の白い壁が、夕陽をうけて鮮やかな橙色に染まっている。
今まさに敵の手におちようとしている城の、最後の命の炎のようだった。
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尾張の隣国である高城国が この秋津城を拠点に攻め込んできたのは半月ほど前のことだった。
西国の鎮圧に兵を出していた織田軍の隙をつく形だ。
五千余の兵を率いて秋津城に駐留したのは、高城の筆頭家老・大井本房。これに秋津城の兵をあわせ合計七千の大軍だった。
しかし信長は これにまったく怯むことなく、以前から虎視眈々と狙っていた秋津城を召し取る好機とばかりに、自ら五千の兵を率いて、左翼に猛将・伊達政宗を従えてこれを迎え討った。
兵の数でこそ高城軍に劣るものの、信長・政宗が自ら先陣を切り 鬼神のような戦いぶりで敵をなぎ倒していく姿に感化された織田軍の兵たちは奮い立ち、高を括っていた高城軍の出鼻をくじくことに成功した。
勢いをつけた織田軍は、あっという間に秋津城が建つ山の麓まで迫った。
しかし、このまま勢いに乗って秋津城を攻め落とすかと思われた織田軍だが、意外にもここから苦戦を強いられることになる。
秋津城へと続く道はどれも細く急峻で、大軍が進むのには適していなかった。
しかも秋津軍は撤退するときに丸木橋を落とし、山の湧き水をわざと導いてぬかるみを作り、人馬の進行を巧みに妨げた。
おまけに山間にひそんだ秋津兵が、丸太や岩を崖上から落としてくる。直接兵に当たらずとも、それらをどけなければ進軍もままならない。
「さて、子供だましがどこまで続くかな?」
楽し気に笑う信長には勝算があった。
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