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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第17章 【信玄編・後編】※R18※


しかし信玄の返事を待たず、竜昌はずいと信玄に近づくと、何のためらいもなく信玄の身体に手を伸ばした。

「お、おい…」

竜昌の細い指が、驚いて目を見開く信玄の兜の緒を、するりと解いた。

信玄の場合、扱いの難しい甲冑を着付けるのは小姓の仕事だった。普段甲冑を身に着けることのない女では なかなか勝手がわからないので、触らせたことはない。

しかし竜昌の手指は、てきぱきと迷うことなく信玄の具足を脱がせていく。
ときどき首筋や手に、わずかに触れるやわらかい手の感触が、なんともくすぐったかった。

『駄目だな俺…さっきから顔がゆるみっぱなしだ。今すぐ叩き斬られたっておかしくないってのに…』

真面目な表情をのまま、黙々と手を動かす竜昌を、信玄は愛おしそうに眺めた。

竜昌はようやく信玄の甲冑を脱がし終わった。
矢は甲冑の下の直垂(ひたたれ)を突き通し、周りを血に染めている。

竜昌は、信玄の背後に回ると、胸元にしまっていた短剣を取り出し、鞘から抜いた。

「御免」

短く言うと、竜昌は短剣を当てて、信玄の直垂と小袖を一気に切り裂いた。

信玄は身じろぎさえせず、されるがままになっている。

血濡れた衣を肩から脱がせると、肩に突き刺さった矢がやっと見えた。
信玄の言った通り、傷は浅いようだが、まだ出血が続いている。

「矢を抜く」

竜昌は自らの手甲を外すと、それを小さく縛って、信玄の口許に持って行った。
人が強烈な痛みに耐えるときの、顎の力を甘く見てはいけない。

「これ、噛んでて」

「必要ない」

「いいから」

そう言われ、信玄は大人しく、その手甲を歯で咥えた。

竜昌は片手で信玄の肩を押さえ、もう片方の手で矢を握りしめた。

「いく」

余計な力をかけないように、一息にまっすぐ矢を引き抜く。
血飛沫が、竜昌の頬に飛び散った。

竜昌は、今まさに引き抜いたばかりの血まみれの鏃(やじり)を確認し、さらに傷口を指で押し開いて、中に欠片などが残ってないか確認した。

「…ゥグッ!!」

さすがにこの激痛には信玄もこたえたようで、噛みしめた歯のすきまからくぐもった声が漏れた。
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