第3章 【政宗編】※R18
最後に袂から紙袋を取り出すと、政宗は露骨に渋い顔をした。
「うげ。アイツの薬か…いつもしこたま苦いんだよなあ。俺様の口には合わねえんだ…」
その様子を見た竜昌がやっと笑った。
「童みたい」
「なんだと!?」
しかしクスクスと笑う竜昌の顔を見て、悪い気はしなかった。
「その五月蝿い口、また塞いでやろうか」
「!」
竜昌は息を呑んで、首筋から顔まで真っ赤になった。
「…季みてえ」
「あ、す、季、剥きましょうか」
取り繕うように、竜昌は赤く熟れた季に手を伸ばし、小刀を取り出して剥き始めた。
先ほどよりさらに強く甘酸っぱい香りが、部屋に満ちていく。
「痣のほうはどうだ?」
「はい、家康様から湿布を頂きまして、だいぶ良くなりました」
「そうか。良かった」
再び部屋に沈黙が訪れる。季の皮を剥くシャリシャリという音だけが響く。
「そう言えば…お前いつか、嫁には行かないと言っていたな」
「…はい」
「自分より弱い男に興味はない、か」
「いえ、そういうわけでは…」
「藤生の家はどうするんだ」
「それは…姉様に男子ができたら、養子にもらおうかと。今のところ三人とも女ですけど。藤生の家系は代々女腹で…あッ」
小さな声を上げて、竜昌が左手の指を咥えた。どうやら手元が狂って指を切ったらしい。
竜昌は静かに小刀を置き、自嘲的に笑った。
「…血にまみれたこの手で、我が子を抱くなんて、考えられませんもの…」
「何故そう思う?」
「姉様が最初に赤子を産んだ時、分かったんです。なぜ太古の昔から、人は女子を戦から遠ざけ、男子だけで戦ってきたのか。赤子の命は神聖なもの、血生臭い戦場からは最も遠いところに置いておかねばならぬものです。…でも気付いた時には…すでに私の手はたくさんの血で染まっていました…」
政宗は、竜昌の傷ついた左手をそっと取った。
「そんなもん男も女も一緒だろ?俺の手でだって血まみれだ。でも、俺は自分の子が欲しいと思うけどな」
「…」
「…俺は…自分の親父を撃った」
「!?」
「いまだに夢に見るほど後悔はしてる。でもな、それを無かったことにはしたくない。親父の死を無駄にしないためにも、俺はそういうことがなくて済む世の中を作りたい。そして俺の子に、その世の中を見せてやりたい」
政宗のまっすぐな視線が竜昌を射抜いた。
竜昌の手が細かく震えている。