第3章 【政宗編】※R18
「俺の代では無理かもしれない。でも俺の子の、孫の、そのまたもっと先は… もう手を血で汚すことがない時代が来るかもしれない。俺はそれを信じたい」
「…」
「だからな、嫁に行かないなんて、言うな」
返事の替わりに政宗の手をギュッと握り返した竜昌の眼から、大粒の雫がこぼれ落ちる。
「…ふふ、そうですね。でも今さら嫁に貰ってくれる方などおりませぬ。」
竜昌は強がって、泣き顔に無理矢理 笑みを浮かべた。
「その時は俺が貰ってやるよ」
「え」
政宗が、ぐいっと竜昌の左手を引き寄せ、その身体を胸に搔き抱いた。そして反対の手で顎を掬うと、涙に濡れた竜昌の唇をそっと奪った。
「…!」
竜昌は驚いて、政宗の胸を押しのけ、顔を背けた。
「嫌か」
顔を背けたまま恥ずかしそうに手で口を抑えている竜昌。
政宗は、真っ赤に染まった竜昌の耳に口を寄せ、囁いた。
「嫌なら今のうちに言ってくれ…そろそろ我慢できなくなる…」
すると竜昌は突然、意を決したように振り返り、政宗の頬に手を添えると、覆いかぶさるように自ら口付けてきた。
「!」
竜昌の細い舌が、おずおずと政宗の唇を割って侵入してくる。
政宗の喉がコクンと鳴った。
次の瞬間───
「て、テメエ!やりやがったな!!」
「うええええ!これ本当に苦い!!」
唇を離したとたん二人が同時に叫んだ。
竜昌が、家康にもらった丸薬を口移しで政宗に飲ませたのだ。
二人してむせ返りながらも、こみ上げてくる笑いが止まらない。
「この薬を必ず飲ませるって家康様と約束したんです」
「こンのヤロ〜…」
政宗が、竜昌を抱く腕にギュッと力を込めた。
「口直しだ!甘いもん寄越せ!」
「あ、じゃあこのスも…」
竜昌は最後まで言い切ることができなかった。政宗が再び竜昌の唇を塞いだからだ。
しかし今までのとは違い、まるで貪るような口づけだった。政宗の舌が、熱を持った別の生き物のように竜昌の口内を蹂躙し、舌を絡めとり、その唾液を吸いとった。
苦い丸薬の後だからか、混じりあうお互いの唾液さえ甘露のように甘い。
逃げるどころか呼吸すら許されない竜昌の唇の隙間から、切ない吐息が漏れる。
「あっ…ンふっ…」
政宗が、竜昌の顎に溢れた二人の唾液をペロリと舐め上げた。
「病人にそんな厭らしい声を聞かせるなんて…お仕置きだな」