第3章 【政宗編】※R18
その場にいた全員が、笑いながら深く頷いた。
「そうだりんちゃん、お見舞いに行ってあげなよ!」
(相変わらず舞は、竜昌のことをりんと呼ぶ。そのほうがしっくりくるらしい)
しかし竜昌と政宗はあの一件以来、帰りの道中も、ほとんどまともに口を聞いていない。とてつもなく気まずい。
「そうだな、それがいい。ついでに信長様からの褒賞も届けてやってくれ」
「は、はあ」
秀吉に甘い笑顔でそう言われると、断るものも断れない。
「竜昌、これ」
家康が袂から紙袋を取り出し、ぶっきらぼうに竜昌に押し付けてきた。
「よく効く風邪薬。見舞いにいったら必ず政宗さんに飲ませてきて。あの人 薬嫌いで有名だから」
「承知しました」
竜昌は褒賞と家康にもらった丸薬を大切そうに胸に抱えると、深々とお辞儀をし、広間を後にした。
「やれやれ世話の焼ける…」
信長は呆れたように、だが優しい眼差しで竜昌の後ろ姿を見送った。
─── ◇ ─── ◇ ───
「政宗様」
障子の外から小十郎の声が聞こえる。
「藤生竜昌様が、お見舞いにいらしております」
「げっ」
政宗は反射的に布団を頭まで被った。沢に落ちて風邪をひいたなどという無様な姿を、よりによって一番見せたくはない相手だ。
「お帰り願いましょうか?」
「いや…通せ」
「はっ」
政宗はせめてもの強がりのように、布団に身体を起こして座り、夜着を整えて竜昌を待った。
しばらくすると、障子に人影が映った。高く結い上げた髪。それだけで竜昌だと分かり、政宗の心臓が高鳴る。
「政宗様、竜昌です。お見舞いに上がりました」
「おう、入れ」
「失礼いたします」
武士らしい無駄のない所作で、竜昌が寝所に入ってきた。
「お風邪を召されたとか…お加減はいかがですか?」
「大したことない。お前は大丈夫だったのか?」
「はい。この通りピンピンしております。申し訳ございませんでした。私のせいで…」
竜昌はかしこまって頭を下げた。
「いや、あの程度で風邪を引くなんざ、俺もまだまだだな」
政宗は照れ臭そうに頭を掻いた。
一方の竜昌はまだ落ち着かない様子で、政宗とは目を合わせず、部屋のあちこちを見ている。
「信長様から褒賞を賜っております。それから城の厨の者たちから政宗様にと、季(スモモ)を」
竜昌とともに部屋に入ってきた甘酸っぱい匂いの正体はこれだった。
「あとこれは、家康様からのお薬です」