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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第16章 【信玄編・中編】


─── ◇ ─── ◇ ───

竜昌は黄昏の城下町を走り抜け、戎社へと急いだ。空はどんどんと暗くなり、吐く息は白い。東の空にはすでに一番星が輝いているのがみえた。

案の定、城を出る時に一悶着あった。
身支度をして、寝込んでいる舞にその姿を見せにきたところで、丁度見舞いにきた秀吉と出くわしたのだ。秀吉は、竜昌の晴れ着姿に感嘆し、一人では心配だからついていくといって聞かなかった。
政宗が、城の大手門のところで秀吉を羽交い締めにしてくれたおかげで、なんとか一人で出てくることができたが、戌の刻(夜8時)までに必ず帰るように言い含められた。

竜昌が約束の場所、戎社の二の鳥居までたどり着くと、そこにはすでに信玄が、鳥居に寄りかかって待っていた。黒っぽい厚手の羽織と、首に巻いた動物の毛皮の襟巻が、背の高い信玄によく似合っていた。その凛々しい立ち姿を見て、通りすがりの町人たちもつい振り返った。

「信殿…」

はあはあと息を弾ませて走ってくる竜昌の姿を見つけた信玄の目が、大きく見開かれた。

「りん殿…?」
「申し訳ありません、遅くなりました…」

しゃらり、と藤の髪飾りが揺れる。
いつもの着流しとは違い、美しい刺繍の入った晴れ着を着て、髪を女らしく結った竜昌は、どこぞの国の姫と見まごうばかりの美しさだった。

「こいつは驚いた…」

呆然と竜昌の姿に見入る信玄に、竜昌は蚊の鳴くような小声で言った。

「おかしく、ない…ですか…?」
「おかしいだなんてとんでもない。びっくりして声も出ないほどキレイだよ…」

そう言われて、竜昌は赤くなって俯いた。

「この髪飾り、つけてくれたんだね、ありがとう。思ったとおり良く似合ってるよ」

信玄の指が、髪飾りを再びしゃらりと揺らした。その音が、竜昌の耳にはくすぐったかった。

「舞はどうした?」
「あ、舞様は、お風邪を召されて…今日は私一人です」
「そっか…お大事にって伝えておいてもらえるかな」
「…はい」

舞がいないと知ってがっかりする信玄の顔を見たくない竜昌は、じっと自分の爪先ばかりを見ていた。
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