第16章 【信玄編・中編】

『不安だ…遅れたということで謙信様にも怒られるだろうし…稀代の戦国武将二人に責められるなんて…』

ぞくぞくと震える佐助の背筋は、恐怖か、それとも悦びか…


───　◇　───　◇　───


二日後、夜祭の日が訪れた。

「舞様、お水をお飲みになりますか？」
「あ"り"がど…り"んぢゃんごべんね"…」

完全に詰まった鼻声で、舞が答える。その目は熱で潤み、力なく竜昌を見上げていた。

「大丈夫ですよ。あとでお体を拭きますね」
「私のごとはいいがら、夜祭に…」
「いえ、今日はお側におりますよ」
「だべ！！！」

急に大声を上げて、舞は竜昌の袖を弱々しく掴んだ。

「ぎょうのたべにがんばって晴れ着なおじだのに…」
「でも夜祭は来年もあります」
「ウウ…しぬ前に…り"んぢゃんの晴れ着姿みだがった…」
「そんな大げさな…」

竜昌が困っていると、家康が煎じ薬を持って舞の部屋を訪れた。

「行ってくれば？舞の面倒は俺が見ておく」
「ですが…」
「舞は早く、アンタに安土に馴染んで欲しいんだって」
「舞様…」
「護衛が必要なら、政宗さんあたりを連れていくといい。どこかの秀吉さんだと小五月蝿いだろうからね」
「え、あ、はぁ…？」

賛同とも否定ともとれる言い方で、竜昌はお茶を濁した。

「…わかりました。もっと安土を知るために、行ってまいります」
「り"んぢゃん、ぎをづげでね…」
「大丈夫です、これ、持っていきます」

竜昌は愛用の備前を握りしめ、見せつけるようにぐっと突き出した。
同時に二人が溜息をつく。

「はぁ～」
「はあ…」
「えっ？えっ？」

がっくりと項垂れる二人を前に、竜昌は訳がわからないという風にきょとんとしていた。




そのころ天井裏では────

『安土の姫様、堪忍してね。二晩にわたって貴女の布団を剥いで、まんまと風邪をひかせたのはこのわ・た・し♡』

雫は部屋の様子をうかがい見ながら、くすりと笑った。

『だって私、いい男の頼みは断れないんですもの～佐助殿とか？御館様とか？うふふっ』