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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第16章 【信玄編・中編】


信玄は壁に片手を突き、もう片方の手で胸を押さえて、苦しそうに肩で息をしていた。
竜昌の姿を見つけると、一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐにまたいつものあの笑顔に戻った。

「ハハ、お恥ずかしい。饅頭を胸に詰まらせた」

『嘘だ…この方は嘘を…』

竜昌はじっと信玄の顔を見つめた。端正な笑顔に騙されそうになるが、その唇は色を失い、こめかみにはうっすらと冷や汗すら浮かべていた。

『本当は…何を想っていらっしゃいるのですか…?』

竜昌は、もっとその表情をよく見ようと、おずおずと信玄に近づいた。
その時、信玄の瞳が妖しげにきらめいた。今までに見たことのないような、激しい炎を秘めた、熱い眼差しだった。

「いけない子だ」
「えっ?」

次の瞬間、信玄の長い指が、竜昌の顎を掬った。
上を向かされた竜昌に、お互いの息がかかるほど顔を寄せ、信玄はいっそう低い声で囁いた。

「二人きりのときに、男をそんな眼で見つめちゃいけないな」

橋の上で羽織を着せてくれた時のように、信玄の親指がゆっくりと竜昌の唇をなぞった。

「ンッ…」

しかし今度は、二人の視線を遮る笠がない分、その熱っぽい視線も、艶のある低い声も、直接竜昌の中に流れ込んできた。竜昌の身体が一気に熱を帯び、膝から力が抜けていく。

「誘われているって勘違いするだろう?」

信玄は、顔をわずかに傾け、今にも触れてしまいそうなほどに唇を寄せた。
竜昌は身体を引いてわずかばかりの抵抗を試みるが、すぐにその背に壁が触れ、逃げ場を失ってしまう。

『これも、きっと本心を隠すための嘘だ…』

しかし竜昌は最後の気力を振り絞って、信玄から目を離さずに、その赤銅色の瞳を見つめ返した。

『…あなたの国は信長様に滅ぼされたのですか…? 今でも恨んでいるのですか…? だとしたら…』

一方で、最後の最後で決して靡かず、逆に心の奥を見透かすように見つめてくる竜昌に、今度は信玄がたじろぐ番だった。

『さすがは元城主といったところか。なかなか肝が据わってるな』

二人はしばらくの間、無言で見つめ合った。


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