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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第16章 【信玄編・中編】


「殿様だ!」
「御館様!!」

町中の人が、大通りに集まり始めた。

「殿…?」

頬に当てられた手の存在も忘れたように、竜昌はふらりと立ち上がり、袖口でごしごしと目元を拭った。
信玄の手が空を掴む。

「…」

人々のざわめきがだんだんと大きくなる。
やがて人混みの向こうから、数人の従者を従え、黒馬に乗った信長が姿を現した。
胸を張り、堂々と通りを行く姿は、覇者の威厳そのものだった。
町人たちは信長が通り過ぎる時、深々と礼をした。竜昌も会釈をしたが、顔を上げると、ふと信長と目があった。
信長は竜昌の姿を認め、ニヤリと笑うと、再び前を向いて、安土の城下町を通り過ぎていった。
こんな人通りの多い所で、自分の姿を見つけてくれたことが、竜昌は嬉しかった。

「信殿、御館様が、…あ…?」

竜昌が上気した顔で横を見ると、そこにはすでに信玄の姿は無かった。きょろきょろと辺りを見回しても、それらしい人影は見当たらない。

「主人、ここにいた人は!?」
「ああ、あのでっかい旦那さんかい。その人なら裏のほうへ行ったよ」
「…かたじけない!」

竜昌は、茶屋の主人に銭を押し付けるように握らせると、裏路地のほうへ走っていった。

「ちょーっと!お侍さん、これじゃ多すぎるよう!!」

後ろから聞こえる茶屋の主人の声に振り向きもせず、竜昌は走った。走り出す前から、早鐘のように打つ心臓が痛い。


『安土で最後に見る君の顔が、こんな泣き顔じゃ寝覚めも悪い。どうか最後に笑ってくれないか』

『戦でね、何もかも燃えちまった』

『俺も旅の途中、信長公が制圧してきた国をいくつも見てきた。正直に言うと、あのお方だって、滅ぼした国々の多くの民から恨まれている』


もしかして…信殿の故郷というのは…


その時、通り過ぎかけた細い路地の向こうに、信玄とよく似た色の羽織がちらりと見えたのを、竜昌は見逃さなかった。
竜昌が急停止して路地を曲がると、それは紛れもなく信玄の姿だった。

「し、ん…どの…?」


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