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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第16章 【信玄編・中編】


「かっ、から、かわないで下さい…」

竜昌は照れ隠しに、羽織の入った風呂敷包みを信玄の胸に押し付けるように渡した。

「ハハハ…本心なんだけどなあ。俺の言葉はどうも信用ならないって、よく言われるんだ」
『…それは主に女人からですよね…?』

ニコニコと笑う信玄を、竜昌は軽く睨んだ。

「さて、りん殿。折角だから一緒にお茶でもいかがかな?」
「あ…今度は私に奢らせて下さい!」
「え?どうして?」
「さっきの与平という者、私と同郷なのですが、この前 信殿に教えて頂いた山葵をここに売りにきたんです。そしたら大層高値で売れたとかで…ぜひ私からお礼をさせて下さい」
「へえ、それは嬉しいねえ。君は俺の言葉を信じて、故郷に伝えてくれたわけだ」
「え、ええ…」

高い背を少しだけかがめるようにして、信玄は竜昌の目を覗き込んだ。赤銅色の澄んだ瞳に、心の奥まで見透かされるような気がして、竜昌はその目を見返すことができなかった。

「では、お言葉に甘えるとしようかな?」

信玄は、緊張で強張った竜昌の頬を、親指でスッとなぞるように撫でた。

『ヒッ』

竜昌は思わず息を呑んだ。ぴりりと痺れるような甘い刺激が背筋を走る。信玄の一挙手一投足が、無遠慮に竜昌の心を溶かしていった。

「そうだ、この前とは違う茶屋を紹介しようか。今度は美味しい饅頭の店だ」
「はいっ!」

茶屋へ向かう道すがら、竜昌は嬉しそうに与兵衛に聞いた秋津国の話をした。
駐留している伊達軍の力を借りて、道や橋の普請が進んでいること。安土との交易が開けたことで、商いが盛んになりつつあること。秋津の民は、織田家による支配におおむね好意的ということだった。
以前の高城国との同盟では、織田方との戦の最前線ということで兵役や重税を課せられたせいもあるだろう。

『こんな顔もするんだな…』

目をきらきらと輝かせながら語る竜昌の顔を、信玄は眩しそうに眺めながら歩いた。
そこにいるのは敗軍の将ではなく、ただ故郷とそこに住む民を想う、一人の若い娘の姿だった。

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