第16章 【信玄編・中編】
佐助は竜昌の後を追った。
竜昌はどかどかと安土城の廊下を速足で歩き、政宗に与えられた城内の部屋の前までくると、いきなり障子を勢いよく開けた。
「政宗様!!」
「お?なんだ竜昌、夜這いか」
突然の竜昌の来訪にも、全く動じる様子もなく、ニヤリと笑う政宗。
今まさに夜着に着替えようとしていた政宗は、はだけた着物のまま竜昌に近寄ると、艶を含んだ隻眼でその顔を覗き込んだ。
「やっと俺様の魅力に気付いたか?」
「なんだか…身体が疼いて…眠れなくて…」
「それで俺のところに来たってわけか。正解だな」
政宗は、その胸に竜昌を迎え入れるように、両手を広げた。
しかし竜昌は、政宗の身体を押しのけるように、ぐいっと何かを胸元に押し付けた。
「あ?木刀?」
「政宗様、御手合わせを願いたく」
「はあ?こんな時間に?」
「いざっ!」
「おい、ちょまっ、しかもここでかよ、あぶっ!」
間一髪で竜昌の鋭い一撃を受け止めた政宗だったが、勢い余って文机をひっくり返した。
「マジかよおおお」
「問答無用!!」
『あれが【女謙信】と呼ばれる所以か…。いや納得、納得』
その頃、天井裏で佐助は一人、深く頷いていた。
『しかし真剣で突然斬りかからないだけ、謙信様よりマシか。あ、障子が蹴倒された。あ、今度は燭台が。これが本当の燭台切…ってか木刀であれを切るのかよ藤生殿は』
二人が深夜の熱戦を繰り広げている中、佐助は安土城を去り、信玄の元に戻った。
翌朝、部屋を滅茶苦茶にした竜昌と政宗が、秀吉にこってりと絞られたことは、言うまでもない。
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