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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第15章 【信玄編・前編】


─── ◇ ─── ◇ ───

それから数日後、竜昌は一人、再び安土城下に来ていた。

人ごみの向こうに見えたのは、数人の町娘たちに囲まれて、脂(やに)下がっている信玄の姿だった。
背が高く人目を引くその姿は、遠くからでも一目でそれとわかった。

「信様~今日はうちのお店にいらして~?」
「え~うちにも~!うんとご奉仕するから~」
「体はひとつしかないのに、困ったな~ハハハ」

娘たちは、これみよがしに品を作り、信玄を自分の店に招こうと必死だった。

竜昌は黙ってわきを通り過ぎようとしたが、その時信玄がこちらに気付き、片手を大きくあけた。

「りん殿!」

竜昌はぎょっとした顔で振り返ると、傘を目深にかぶりなおし、会釈もそこそこに、そそくさと立ち去ってしまった。

「ありゃりゃ~嫌われちゃったかなあ?」

「何あれ?」
「ひどくなーい?」

しかし信玄は余裕の笑顔のままだ。

「お嬢さん方、ちょっと失礼するよ。俺はあのお方に用があるんだ」
「え~?信さんたら~」
「もういっちゃうのお?」

信玄は、女たちの間をかき分けるようにして輪の外に出ると、そのまま竜昌の後を追った。





竜昌は、少し離れた路地で、露天商が広げる風呂敷の前にしゃがみ、真剣な顔で商品を見ていた。

「これなんかどうや。細くて丈夫、間違いなしや」
「う~ん、もう少ししなやかなのがいいかな」
「じゃあこっちのはどないです?」

露天商が束ねた紐を取り出した。

「こいつは上物でっせ。芯に麻が入っとる」
「ふーん?」

竜昌はその紐を手にとり、引っ張ったり結んでみたりしながら、品定めをした。

「これ、おいくらです?」
「一間あたり五文!」
「五文!?(高っ)」
「うちなんか良心的な方でっせ。これが京なら七文はしますさかいに」
「七文!!」

笠の中で、竜昌は目を真ん丸くした。

次の戦に備えるために、城にある鎧を補修しようと、小札をくくるための紐を買いに来たのだが、これでは金がかかってしょうがない。
しかしすぐ切れるような安物の紐を使っては、大事な場面で役にたたない。

竜昌が悩んでいると、すぐ横から聞き覚えのある声がした。

「これが五文ってことないだろう。三文がいいとこだな」
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