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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第15章 【信玄編・前編】


竜昌は、目深に被った編笠の隙間から、通り沿いに怪しい者がいないか目を光らせていた。
華やかな容姿の舞は、行く先々で人目を引いた。売り子に声をかけられ、話し込む。またあちこちに馴染みの店もあり、竜昌は見失わないようについていくのに必死だった。

そのとき、男の大きな掌が、ガシッと竜昌の左肩を掴んだ。

シャキンッ

反射的に、目にもとまらぬ早業で剣を抜いた竜昌が、振り返りざまに 男の喉元に切っ先を突きつけた。

「その手を離せ!この下ろ…ぅ…」

下郎が、と言いかけた竜昌の唇から、言葉が消えた。

竜昌の背後に立っていたのは、身の丈六尺はあろうかという 逞しい体躯の、端正な顔をした男だった。
その赤銅色の瞳に甘やかな光を浮かべ、片手で竜昌の肩を、もう片方の手で舞の肩を抱き、にこにこと笑っている。
その身にまとった堂々とした雰囲気や、地味ながら上等そうな生地の着物は、とても下郎などと呼べる様子ではなかった。

あっけにとられたように男を見つめる竜昌の横で、舞が驚いたような、それでいて嬉しそうな声を上げた。

「…信さん!」

信さんと呼ばれた男────信玄は視線を舞に落とし、低く艶のある声で言った。

「やあ、お久しぶり。俺の天女が天に帰ってしまう前に、どうしても もう一度会いたくてね。間に合ってよかった」
「もーっ信さんたら、相変わらずなんだから!」

信玄は、次にその視線を竜昌に移し、悪びれもなくにっこりと笑った。

「今日はいい日だ。安土に着いた途端、二人の美女に出迎えてもらえるなんてね」

首筋に刀を突きつけられているにもかかわらず、信玄はまったく動じる様子はない。

「…ちょっとばかり手荒だったけどね」

信玄はそう言って、竜昌に向かって片目をつぶって見せた。

「!?」

「アーッ!!りんちゃん、ちょっと!刀しまって!この人わたしの知り合い!」
「舞様の…?」
「うんうん。行商人のまとめ役をしてる、信さんだよ」

竜昌は刀を構えて睨みつけたまま、再びつま先から頭のてっぺんまで、信玄をじっくりと見渡した。
確かに刀はもっておらず、商人と言われればそのようにも見える。
しかし竜昌の本能的な感覚が、何かを嗅ぎつけていた。

『いや、違う。この男は…商人じゃない…』
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