第15章 【信玄編・前編】
謙信は盃のへりをちろりと舐めながら、佐助を睨んだ。
「高城などどいう雑兵はどうでもいい」
(一応、同盟国ですが…謙信様)
「で…?その藤生とやらは…」
「可愛いのか?」
「強いのか?」
信玄と謙信が同時に声を上げた。
佐助は表情一つ変えず、再び眼鏡を押し上げた。
「さすがお二方。常にキャラがぶれませんね」
「伽羅…?」
「いえこちらの話」
そこへ、湯呑みをのせた盆を片手に幸村がやってきた。
「御館様、白湯…って、アッー!」
「ん?どうした幸」
「その団子…」
「ああ、これか。なんでだろうな〜?気づいたらここにあったんだ」
うまうまと団子を頬張りながら笑う信玄の前に、ドン!と荒々しく湯呑みを置くと、幸村の手に飛沫が跳ねた。
「ッッ!アチーッ!!」
「ハハハ幸、そそっかしいな」
「ッ誰のせいだと思ってんすか!!」
「さすが我がズッ友。ツンデレ属性にドジっ子属性も付加とは。鬼に金棒だな」
「はあ?佐助お前何言ってんだ」
「ふふ…それはそうと」
「まずは謙信様のご質問から。私が実際に手を合わせたわけではないですが、剣の腕はかなりのもののようです。あの伊達政宗公をも凌ぐほどで、今や織田軍の剣術の師範を任されたとのこと。あとは弓の腕も相当だという情報もあります」
「ほほー。できれば敵に回したくはなかったなあ」
信玄が感心したような声を上げる横で、謙信はキョトンとしている。
「何故だ。敵になって良かったではないか。正々堂々と討ちにいける」
謙信は盃を飲み干すと、すくっと立ち上がった。
「兵を上げる。その藤生某とやらを討ちにいくぞ。どちらが強いか世に知らしめてやる」
「まあまあまあまあ謙信様そう焦らずに。秋津は高城国の向こうです。それに藤生殿と剣を交えるということは、織田信長公と対決するということ。そんな『散歩に行くか』みたいなノリで決めないで下さい」