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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第15章 【信玄編・前編】


~ プロローグ ~


「そういえば謙信様、もうご存知かと思いますが…」

言いかけて、佐助は歯を食いしばり、くないを持つ手に全身の力をこめた。そうでないと、謙信の渾身の一撃に堪えられそうもなかったからだ。

「なんだ佐助、そうやって俺の気を逸らす作戦か。小賢しい」
「…いえ、ふと思い出しただけです。【女謙信】と呼ばれていた武将のことを」
「は?」

謙信はその色違いの目を大きく見開き、細い眉を歪めた。

「その称号は聞き捨てならんな。詳しく話せ」
「わ、わかりましたから刀を収めてください…っでないと…ぐぅ…」
「甘えるな」

謙信の愛刀、姫鶴一文字が、佐助の額すれすれまでに迫っていた。その刀身から、ひやりとした冷気が下りてくるのが感じられるほどだった。

「ほう~?珍しい。佐助が女の話か」

二人の横から、のんびりと間延びした声が聞こえてきた。

謙信は苛立たしげに、くないごと佐助を弾き飛ばすと、ふぅと溜息をついて、刀を収めた。そして冷ややかな瞳でちらりと横を見やると、にこにこと笑いながら、縁側で団子を頬張っている信玄の姿が映った。

「お前の顔を見て興が醒めた」
「だそうだ、よかったな佐助」
「ええ、信玄様。おかげさまで命拾いしました」
「で?聞こうか、その女謙信とやらの話」
「さすがは信玄様。やはり気になりますよね?」

佐助は中指で、メガネのブリッジ部分をくいっと押し上げた。

「先日、秋津城が落ちたのはご存知ですね?」
「ああ…高城の小さな属国だろう」
「ええ、そこの城主だった、藤生竜昌殿のことです」
「聞いたことがあるぞ。初陣以来負けなしの剛の者だとか。…まさか?」
「ええ、そのまさかです」
「女だったとは知らなかった」
「俺も実際に見るまでは信じられませんでした」
「なに!佐助、お前は会ったことがあるのか」
「ええ安土で」
「安土?」
「秋津城を落とされ、藤生殿は織田の軍門に下りました」

信玄の隣にどかりと座り、さっそく手酌で酒を飲みはじめた謙信の端正な頬が、ぴくりと動いた。

「へぇ、高城の奴ら、織田を討つつもりで討ってでたくせに、かえって城と武将を取られるとは。だいぶ下手を打ったな」
「まさに」


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