第14章 【信長編】※閲覧注意※ R18
「来い」
竜昌はその襟を掴んだまま、静かに歩き始めた。
「クソ!殺せ!」
血を吐くような松之丞の叫びを、竜昌は一笑に付した。
「そう慌てずとも、すぐに冥土に送ってやる」
竜昌は松之丞の顔をぐいと引き寄せ、その耳元で囁いた。
「ただ、楽に死ねると思うなよ?我が同胞たちの痛み、思い知れ」
戦に勝ったとはいえ、織田軍は兵のほぼ半分を失う大打撃を受けていた。死んでいった兵の中には、竜昌が秋津から連れてきた古参兵たちの姿もあった。
まだ幼かった城主の竜昌を支え、幾多の戦場を共にしてきた、竜昌が父とも兄とも慕っていた者達だった。
「お待ちください藤生殿、その者をどうするおつもりで?」
織田軍の一人が竜昌を引き留めようとすると、竜昌は肩越しに振り返って、ニヤリと笑った。
「ほう?山中殿、このような年端もいかぬ子供が、臓腑を撒き散らしながら苦しんで死んでいく様を愛でる趣味がおありとは。存じ上げませんでした」
声をかけた山中は、背筋がぞくりと凍った。血に汚れた竜昌の唇から、さらに鮮やかな鮮血色の舌がチラリと覗く。
「ご覧になりたければ、どうぞこちらへ」
そう言い放ち、竜昌は松之丞を引きずったまま、堂々と本陣を後にした。
『鬼…鬼だ…』
山中某はまるでその場に足を打ち付けられたように、ぴくりとも動くことができなかった。
やがて四半刻ほどの後、まるで赤鬼のように全身を返り血で真っ赤に染めた竜昌は、その片手に引き摺り出した内臓の欠片を持って、本陣に戻ってきた。
その姿を見た者は、誰も彼も、声を出すことすらできなかった。
─── ◇ ─── ◇ ───
竜昌は、再び信長の部屋に呼ばれ、そこで信長が戻るのを一人待っていた。
やがて乱暴に襖をあける音ともに、信長が部屋に帰ってきた。
竜昌は三つ指をついて頭を下げ、信長を迎える。
信長は一歩部屋に足を踏み入れると、ふんふんと鼻を鳴らした。