第3章 【政宗編】※R18
家康は口の端だけでフフンと笑った。
「わかりました。腫れと痛みに効く湿布があります。あとで竜昌の部屋に届けておきます」
「悪いな、恩に着るぜ。じゃあおれも支度してくる」
そう言うと、政宗も足早に広間を去っていった。
その様子を見ていた秀吉が、肩をすくめた。
「やれやれ、安土一の色男も形無しだな」
三成も不思議そうに、政宗の後姿を見送っている。
「賊の兵力を考えれば、竜昌様だけで十分すぎるほどかと思いますが、なぜ信長様は政宗様の同行をお許しになったのでしょうねえ?いつもは無駄を嫌うお方なのに」
「この場でそれが分かってないのは、お前と政宗くらいのものだな」
楽しそうにククッと光秀が笑う。
「え?光秀様いま何と?」
「なんでもないさ」
ぽんと三成の肩を叩いて、光秀も広間を後にした。
─── ◇ ─── ◇ ───
その二日後、早々に安土を発った竜昌と政宗は、賊がいるという山間の街道にたどり着いた。
噂通り、街道を行きかう人影はなく、しんと静まり返っている。おそらく賊も、こちらが兵を率いて向かっていることは既に知っているであろう。
「どこから来てもおかしくねえ、隊列を崩すなよ」
その時、竜昌の眼に、前方の林の中に見え隠れする金属の反射光が映った。
『いる…』
「全員、抜刀!!」
竜昌の号令に、五百の兵が一斉に武器を構える。
その途端、竜昌は馬の腹を勢いよく蹴り、単騎で前方へと飛び出した。
「おい馬鹿、待て!」
政宗が引き留めようとするが、すでに竜昌には聞こえていない。
街道を風のように駆けていく竜昌に向けて、林の中にひそんでいた賊の鉄砲隊の火縄銃が火を噴いた。
しかしそのおかげで、本隊から 賊の鉄砲隊の位置がわかる。
「あそこだ、撃て!」
自軍の鉄砲隊が、林の中をめがけて弾を撃ちこむ。からくも生き残った賊たちが、背中をむけて逃げ出していくのが見える。
鉄砲玉を潜り抜けて、さらに駆ける竜昌。ときおり刀を振り、木々の間に渡された黒い綱を切っていく。騎馬武者を落馬させるための古典的な罠だ。
あっという間に竜昌は、賊の本隊の前へとたどり着いた。竜昌はそのまま速度を緩めず、本隊へ突っ込んでいく。