第14章 【信長編】※閲覧注意※ R18
ふらふらと惚けたように天主を登っていくと、いつのまにか最上階の信長の居室の前にたどり着いていた。
襖の前には、若い小姓が二人控えている。竜昌が来ると、小姓は中に向けて声をかけた。
「御館様、藤生様が参られました」
部屋の中から信長が答える。
「通せ。そなたらは下がってよいぞ」
「はっ」
竜昌が一歩 部屋に入るのを見届けると、小姓たちは襖を閉め、静かにその場を去っていった。
豪華な調度品や、竜昌が見たこともない珍しい南蛮の道具等が置かれた広い部屋。しかしそこに信長の姿は無かった。
竜昌が立ちつくしていると、月明かりの差し込む障子の向こうから声がする。
「こっちへ来い」
竜昌はが障子を開けると、そこは広々とした露台になっていた。
月明かりのに照らされたその露台に座を作り、信長はゆるゆると独酌をしていた。
竜昌はその露台の隅にかしこまり、深々と頭を下げた。
眩いほどの月光が、信長と竜昌の影を、焼き付けるようにくっきりと露台に落としていた。
「お召しにより参上しました」
声が震えた。
信長は 盃の水面に映った月を眺めたまま、答えなかった。
その沈黙が 竜昌の胸を突き刺す。
しばらくして、盃を一気にあおると、信長がやっと口を開いた。
「近う寄れ」
竜昌は大きく息を吸うと、静かに立ち上がって信長の側にかしこまった。しかしそこは、ぎりぎり信長の手が届かない、間合いの外だった。
信長は、空になった盃を指で弄びながら、フッと笑った。
「俺が怖いか」
信長の真紅の瞳に見据えられ、竜昌の背筋がぞくりと震えた。再び首を絞められた時のように、呼吸が浅くなる。
「はっ…」
膝に置いていた竜昌の手がじわじわと汗ばんでくる。
ちらりと見ると、信長の背後には愛刀が二本置かれていた。名刀と名高い、実休光忠と薬研藤四郎であろうか。