第14章 【信長編】※閲覧注意※ R18
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安土城に帰還した竜昌は、謁見の間で信長に相対し、平伏していた。
「ただいま古木城より戻りました」
「大義であった」
「仰せの通り、城は焼き払いました。梶木基平、ならびに室二名、重臣五名が自刃。首は改めて御座います」
信長は答えずに、当然、というように唇の端だけを曲げて、小さく笑った。
「…梶木の嫡男はどうした?」
一番怖れていた質問に、床に突いていた竜昌の指先が、ぴくりと動いた。
「嫡男…虎太朗は…」
竜昌は頭を下げ、震える指先を隠すように、そこに額をつけた。
「取り逃がしました」
「!」
謁見の間に緊張が走る。
張り詰めた空気を打ち破るように、信長がパシリと音をたてて扇を閉じた。
「竜昌…」
「ハッ!」
「貴様の出陣の前、俺は何と言うた?」
「…ッ」
寒くもないのに竜昌の肌は総毛立ち、こめかみから気持ちの悪い汗が流れた。
「…っみ…皆殺しに…しろと…」
信長はその真紅の眼を細め、竜昌を見据えた。
「では、なぜお前はここにいる?」
その声色に、その場にいた者全員の背筋が凍った。まるで竜昌を気遣うような、優しげな声。その唇には笑みさえ浮かべている。
「なぜ山狩りでも里狩りでもして、取り逃がしたその首を刎ねて来んのだ? ん?」
「あ…のっ…」
震える声で、竜昌が答えようとした瞬間だった。
ダンッ!
信長の足が床を蹴る音が、謁見の間に響き、それまで信長が身体を預けていた脇息が、床に転がった。
「ヒグッ、」
目にも留まらぬ速度で、信長は上座から竜昌に飛びつき、その右手で喉元を掴み上げた。
「…ゥ…グ…ッ…」
竜昌は反射的に信長の手首を掴んだが、信長の指は信じられないほどの怪力で竜昌の首の皮にジリジリと食い込んでいく。
「信長様!?」
「御館様!!」
「静まれ!」
周りにいた武将たちも一斉に立ち上がったが、烈火の如く怒り狂う信長のあまりの迫力に、それ以上動くことができなかった。
「…ッフ…のぶ…な…さ…」
完全に呼吸を止められた竜昌は、苦しさに涙を流しながら信長を見た。
怒りに燃えた信長の眼差しが、竜昌を射抜く。
「俺も舐められたものだな」
「ヒ…ぐ…」